普通の人間として生きていれば、今頃もうこの世に居ないのだろうか。寿命は各々違ってくる為一概には言えないが、仮に生きていたとすればそれなりの年長者となるだろう。
自分がいつ死ぬかなど分からない。死ぬなどと言うことを考えてもいない。この五つの心臓が果てない限り死ぬことは無いのだから。一つ朽ちてもまた新たな心臓を奪えばいい。自分の命はそうやって繋いできた。
それが何故、彼女には出来ないのだろう。普通の人間だから、それ以外の答えは無い。だからと言って自分と同じ禁術を使わせる訳にもいかない。だが、死ぬにはまだ早過ぎる。

「角都…?お帰りなさい。任務お疲れ様」

布団の中から顔を覗かせ此方を見て微笑む名前。その隣に腰を下ろし、持ってきた食事を食べさせる。

「自分で食べられるから大丈夫だよ?」
「いや、お前は安静にしていろ」

普通逆だよねと呟き、白飯を口に含む。本来であれば自分が介抱される側なのだろうが、俺達は、違う。
名前は半年程前の任務で重傷を負った。傷はすぐ治せたものの敵の攻撃に使用された菌が体内で増殖し始め、ついに病に倒れた。医療忍術ではどうにもならない病だった。初めのうちは病気とは思えないほど俊敏な動きで任務を遂行していたが、次第に身体が蝕まれ、ふた月前から寝たきりの状態になった。
出来ることならばこの命を分けてやりたい。何故人間の命は一つしかないのだろう。やり直しは利かず、失えば全てが終わってしまう。

「角都、あのね」
「どうした」
「大好き」

俺の手を握り微笑む名前。少し力を入れれば折れてしまいそうなその手を、そっと握り返す。

「俺も名前を、愛している」
「ありがとう…。角都とお別れしたくないな。これからもずっと一緒に居たい」

名前は微笑みながら、瞳に涙を浮かばせる。

「でも、角都と一緒に居たら絶対に私の方が早く死んじゃうよね」
「そうだな…」
「じゃあ、角都には私の分までもっともっと長生きしてもらわないと」

微笑み続ける名前を抱き寄せ自分の胸元に沈める。無理をするなと頭を撫でれば、肩を上下させ声を押し殺すように泣いた。心配させまいと笑顔でいることは分かっていた。その気遣いが名前の笑顔に憂いを帯びさせていたから。一番辛いのは他でもない、名前だ。

暫く経って顔を上げた名前は、またいつものように微笑んでいる。

「私は200歳まで生きる予定だったから、私の分もしっかり生きてね」
「普通の人間はそこまで生きられないと思うが。俺にあと100年以上生きろと言うのか」
「角都なら出来るよ。300歳のおじいちゃんなんて素敵じゃない。あ、でも私に早く会いにきてほしいからなぁ。どうしよう」

おちゃらけて笑う名前の笑顔は、今度こそ本物。それにつられて自分の頬も緩む。

「私、角都の前だと自然と笑顔になっちゃうんだよね。嬉しくて、幸せで」
「今日は随分と素直だな」
「今のうちに伝えたいことを伝えたておかないと、きっと後悔するから」

そう言って名前は俺に唇を寄せた。触れるだけの口付け。此処だけ時間が止まってしまったかのように、互いに動くことはない。
口付けの後、照れくさそうに俯く名前があまりにも可愛く、今度は俺から唇を奪う。途中、頬に生温い感触が伝った気がした。


「今日は一緒に寝ようよ」
「あぁ。元々今日は此処で寝るつもりだったからな」

入浴を済ませ、再び名前の部屋へと足を運ぶ。明日は幸いにも任務が無く、一日中名前と一緒に居ることが出来る。名前の寝ている布団に入り、身を寄せ合う。

「おやすみ、また明日ね」
「おやすみ」


また明日は、もう来ない。






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