「飛段と角都がやられた」

頭が真っ白になる。身体の力が抜けくたりと倒れこむ。私達には常に死が付き物だった。でも、こんなにも呆気無く。
それでも落ち込んでいる時間など無く、速やかに日常へ帰り任務を遂行しなければならない。空っぽになった筈なのに現実を受け入れる事が出来ない心は、ただ一定の鼓動を刻む。


「やっぱりここに居たか」

後ろから聞き覚えのある声。振り返ると、座り込む私をデイダラが見下ろしていた。

「全然顔を見せないから心配したんだぜ、うん」

飛段が居なくなってから帰る場所にも帰らず、此処に居ることが多くなった。見晴らしの良いこの丘は、私と飛段のお気に入りの場所。メンバーはこの場所を知っていたが茶化しに来ることも無く、二人だけの時間を楽しむには十分だった。
今はもう、ひとり。

「アイツ、『あの丘はオレと名前の秘密の場所だから絶対に来るなよ!』とか言って自分からこの場所をバラしちまったんだよな」
「…馬鹿だよね。私と付き合っていることも秘密にするハズだったのにみんなの前で堂々と話しちゃうし」

暁での恋愛が禁止されているというわけではないが、組織内で恋愛することはあまり良いことではないだろうし、任務に支障が出ては周囲に迷惑が掛かってしまう。
付き合っていると飛段に公言された時は暁を辞める覚悟もした。だが皆は交際を受け入れてくれた。恥ずかしさと嬉しさに心がむず痒くなったのが遠い昔のことのように感じる。

「ま、普段の行動から名前が好きだってのがバレバレだったけどな、うん」

私の隣に腰を下ろし、少しの間の後、デイダラが口を開いた。


「何だか湿っぽい組織でよ、馬鹿みたいに笑ったりふざけたりすることなんて殆ど無かった」

夕刻の冷たい風が私達の間を通り抜ける。寛げていた外套を閉め、隣に座る彼の言葉に耳を傾ける。

「けど飛段が来てからそれが変わった。先輩を敬わねぇしやりたい放題な奴だったけど、組織の空気が少し緩んだと言うか、明るくなったと言うか…」

私が暁に入った時は既に飛段がメンバーに加わっていた。だからデイダラの話す昔の暁は知らない。確かに飛段の居ない今の組織は静かで暗い。だがそれは、個人的な感情を抜きにすれば目的達成への緊張感から来るものだと思っていた。

「歳の近い奴もあんまり居なかったし、イタチとは歳が近くても馬が合わない。でもアイツとはくだらないことで盛り上がれた。ハメを外し過ぎて旦那や角都に怒られることもあったけどな…うん」

今はもう怒られることもねぇけど、と俯く。そうだ、私が飛段を失う前にデイダラはサソリを失っている。

「オイラにとっての旦那の存在と、名前にとっての飛段の存在は違う。けど名前の気持ちは痛い程分かる。旦那が死んだって聞いた時はオイラだって…な」

悲しそうに笑う。そんな顔しないで。私まで、

「だから名前、泣きたい時に泣け。我慢してる方がずっと辛いぞ」

ぽんとデイダラの手が頭に触れる。その瞬間、何かが決壊して込み上げた。


「うぅっ、飛段…ひだん…!!」

今まで堪えていたものが一気に溢れ出る。感情を抑え切る事が出来ず、時折嗚咽が交じる。私の頭を撫でるデイダラが、一人で抱え込むなよと呟き、久々に感じた人の温もりに更に涙腺が緩んだ。

「あんまり一緒に居るとアイツが怒って呪いに来るかもしれねぇけど…オイラで良ければいつでも話聞くからな、うん」
「これで呪うようなら、私が飛段のこと、叱ってあげる、わ、っ…」

しゃくり上げながら何とか言葉を紡ぐ。これほどまでに飛段のことを愛していたのか。一緒に居ることが当たり前で自分の気持ちがこんなに大きくなっていることに気が付かなかった。
飛段も同じ気持ちだったのかな。私はちゃんと伝えられたのかな。その質問に答えが返ってくることはない。今はただ、彼への気持ちを確かめるよう涕泣した。

この涙は、貴方への愛。どうか何処かで受け取ってください。






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