この人には勝てないと思った。どう頑張っても辿り着くことが出来ない。才能が溢れている。努力をしたところでこの人を超すことはきっと出来ない。負けず嫌いな自分でもそれを悟ってしまうくらい本当に魅力的な作品だった。


「お前、作風変わったよな」

集中している時は誰しも話し掛けられたくない。同じ芸術家なら分かってくれる筈なのにデイダラは何度も話し掛けてくる。しかも同じことばかり。きっ、と睨んでも私の作品を手に取りじっと見つめたままで彼に視線が届くことはない。そしてまた呟く、変わったと。
芸術は平行線を辿っていては何も生み出せない。常に進化しなくてはならない。だから変わるのは当たり前だと思う。名前も知らないあの人の作品を見てから私の芸術観は変わった。多かれ少なかれあの人の影響を受けているということは自分でもなんとなく理解している。あの人に近付いたという意味で変わったと言われたのならばそれは嬉しい。

「どこが変わったの」
「なんつーか、つまんなくなったな、うん」

予想とは真逆の答えに眉がピクリと動くのを感じた。作業の手を止め振り返ると彼の視線は相変わらず私の作品に向いたままだった。今のデイダラの言う変わった、は喜べないし嬉しくない。

「どういうこと」
「名前が名前じゃないみてえ。個性が無い。名前らしさを感じない」
「私らしさって何?」
「それはオイラにも上手く説明出来ないけどよ…うん」

漸く彼と目が合ったが表情は変わらなかった。ひどくつまらなそうな目。自分の失敗作を見るような目で私の作品を見ている。確かにデイダラの生み出す芸術は私のそれよりも美しい。彼のことは尊敬しているし、良きパートナーであり良きライバルでもあった。でも最近は今のように作品を眺め変わったと呟き帰っていくだけ。

「誰が名前を変えた」
「それは…」
「誰だ?」
「この前の美術展で金賞だった人」
「あぁ」

あいつか。まるであの人のことを知っているかのように呟く。一体誰なの、あの人のことを知りたい、聞きたいことは沢山あったのに、

「止めた方が良いぜ。アイツはつまらない」
「どうして」
「どうしてもだ。それに今の名前じゃ張り合いが無くてオイラつまんない」
「何よそれ」

彼は決してあの人のことを教えてはくれなかった。あいつは止めておけ、名前は名前のままで良いと言うばかり。そしてもうこんなモノを作るのは止めろと私の作品をゴミ箱に捨てた。流石に頭に来て部屋を出ようとする彼に怒声を上げたが、振り返る彼の目を見たらそれ以上何も言えなくなってしまった。

「あれは失敗作だ」

その声はドアの向こうには届かない。


それから暫くしてデイダラは姿を消した。彼の部屋には沢山の作品だったもの、が散乱しており殆どが原型を留めていない。彼のことだ、作品を全て爆発させたのだろう。ただ一つ歪んだトロフィーが目に入った。そう言えばずっとあの人の作品を見ていない。






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