バイク


彼はバイクが好きだ。

「晴れて良かったね〜」
「そうだね!こんな気持ちの良い日に走れて、このバイクも嬉しいだろうな!」
「えっ!?…う、うん!そうだね」

彼はバイクが好きだ。

「あのさ!バイクで走ってる時って相手の声が聞き取りづらいよね」
「会話をするよりこの風を感じるべきなのさ!」
「そ、そっか…」

彼はバイクが好きだ。

「着いたよ。この高台からの景色は最高なんだ!」
「わぁ〜。本当だ!ねぇ、景色良いからここで写真撮ろうよ!」
「良いね!それじゃあ、ハイ」

そう言って名前にカメラを渡す。

「え、二人で撮るんじゃないの?」
「えっ?あ…それも撮るけど、まずはバイクとツーショットで!!」
「…分かった。(私は後回しかよ!)」

複雑な気持ちになりながら二人で写真を撮り、側にあったベンチに腰掛ける。

「どうしたの名前?黙り込んじゃって…。体調悪い?」
「痛い」
「だ、大丈夫!?どこが痛む…」
「頭と心とマリク」
「えっ?」
「マリクってば、ずっとバイクのことばかりなんだもん!『バイクの名前はラーにしようかな(ルンルン)』とか、『ラーに乗る自分(恍惚)』とか。急ブレーキかけた時も『うわあぁ!!大丈夫かラー!!』って私よりバイクを心配したり…」
「そ、それは…(括弧の中の文字まで表現するのか…)」
「なんか切なくて胸は締め付けられるし、バイクに嫉妬してる自分に頭が痛いのよ!」
「ごめん。でも、最後に言った僕の名前は…」
「バイクが好き過ぎるマリクが痛い」
「あぁ、成る程!上手いね名前」
「なっ、何が上手いよ!もうっ!」

立ち上がって怒るとマリクも立ち上がり、後ろから抱き締められた。

「ごめんね。僕、前からバイクに乗るのが夢で、まさか好きな人と好きなバイクに乗れる日が来るなんて思わなかったんだ…。今日は初めてのバイクデートだったから、浮かれちゃったみたい」
「マリク…」

そうだ。彼は今まで墓守りの一族として使命を果たすために暗い中で生活してきたんだ。あの頃はこんな未来夢にも見ていなかったんだろうな。

「僕は名前が好きだ。バイクも好きだけど、その好きさと名前の好きさは違う。名前のことは…言葉で表すことが出来ないくらい好きなんだ。ごめん。上手く表現出来ないけど…」
「マリク…あのさ…」
「何?」
「顔見て話したいんだけど…」

しかしマリクは腕の力を緩めてくれない。

「いや…。しばらくこうしていて良いかな」
「あぁ、うん…?」

何でだろうと思ったが、ふと前を見ると目に映る夕陽がとても綺麗だった。

「綺麗だね、マリク」
「うん。夕陽に映える僕のバイク…」
「え?」
「あっ。名前と見る夕陽は一段と綺麗に見えるよ。僕は幸せ者だなぁ」
「もう…」

彼はバイクが好きだ。
そんな彼が、私は好きだ。


「色々あったけど楽しかったな〜」
「僕も、このバイクで名前とデート出来て良かったよ!」
「(もうバイクのことは仕方ないや)…そうだね。またこのバイクで出掛けよう!」
「うん!楽しみだなぁ〜」
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