ジェットコースター


「落ちる」
あまり良い意味では使用されない言葉だが、その時にしか味わえない快感がある…。

眼前に広がるは、人々が怯え、泣き、叫ぶ様子。びっしりと書かれた注意書きを見るだけで、それが如何に危険かを知ることが出来る。

「本当に乗るのか…?」
「何よ遊戯。怖いの?」
「そっ、そんなことないぜ!DEATH-Tに比べたらこんなの余裕余裕!」

それと比べたらほとんどの物は歯が立たないと思う。とは言え、世界でも有数の規模を誇るジェットコースターを前にすると流石に身体がすくむ。
2時間待ちの案内を聞き、名前と遊戯、そしてバクラとマリクは列に並んだ。


「乗るまで暇だから何かしようぜぇ」
「じゃぁデュエルだな!」
「あのよぉ王様、お前いつも当たり前のようにデュエルって言ってくるけど遊園地に来てまでデュエルすんのかよ」

すかさず突っ込みを入れるバクラだが、彼もデッキを常備しているということは指摘してはいけないのだろうか。デュエルについての喧嘩が起こる前に二人をなだめ、別の暇潰しを考える。

「あ、最近知った面白い遊びがあるんだけどなぁ…」

マリクが何か思い付き口を開く。

「ダースベイダーごっこって言う…」
「え?なに?」
「ダースベイダーごっこ」

いや、みんな知ってるでしょ?みたいな顔で言われても…。全く聞いたことがないんだけど。

「…マリク。それは具体的にどんな遊びなんだ?」
「遊戯も知らないのかぁ?この前主人格サマと盛り上がったんだけどなぁ」

そう言って少し間合いを取ると剣を構えるような体勢をし、ブゥゥンと言い腕を振った。

「こういう遊びだぜぇ」
「は!?それだけかよ!お前らどんな遊びで盛り上がってんだよ!」
「やってみると楽しいもんだぜぇ?オレはこれで陽が暮れるまで遊んだんだからなぁ!」

マリク二人がこの遊びで盛り上がっている光景を思い浮かべ、思わず吹き出した。そもそもダースベイダーじゃなくても良いだろう。作品名を当てた方がしっくりくると思う。いっそライトセーバーごっこでも良いんじゃないかな。
そう語りかけようと横を向くと、遊戯がブゥン、ブゥゥンと腕を動かしていた。

「面白いじゃないかマリク!俺も今度相棒とやってみるぜ!」

語りかけるのを止めた。遊戯くんごめん、彼に変な知識与えちゃって。


何だかんだ話しているうちに乗り場に到着し、前に遊戯とバクラ、後ろに私とマリクが乗る。

「ひぃぃぃぃっ!シルバーシルバーシルバーシルバーシルバーシルバーシルバー…」
「こぇえよ!何の呪文だよ。まだ出発してもいねぇのに…」
「バクラ、お前は怖くないのか!?やっぱりデュエルで気を紛らわせておくんだった。ブゥゥンとかやってる場合じゃなかったぜ…」
「そんなこと言ってるけどさっきまで散々楽しんでたじゃねぇか」

何やら前が騒がしいが、隣に居るマリクは取り乱すことも無く静かに座っている。

「マリクは怖くないの?」
「このオレがこんなもんにビビるわけないだろぉ?そんなことより腹が減ったぜぇ…」

そう言って私から視線を逸らす。あれ…マリク汗かいてない?

「なんか汗かいてるけど…暑いの?」
「い、いやこれは違うぜぇ…。ったく腹が減ってお腹とつむじがくっつきそうだぜぇ」
「言ってること滅茶苦茶だよ。あぁもう私まで怖くなって…キャアァァーーー!!!」

話している途中でいきなりコースターが動き出す。始まったら最後、ひたすら叫び、落ち、回る。あぁ、でもこの落ちる瞬間のフワッっとした感じが何とも言えず病みつきになる。他では経験することのない浮遊感。

「AIBOOOOOOOOOOOO!!!!!」
「フゥーーーーーーッ!!!」
「・・・・・」
「キャーーーーー!!!」

隣から全く声が聞こえないままジェットコースターが終了した。
フラフラになりながら降り口に向かうと、走行中に撮ったと思われる私達の写真が映し出されていた。


「写真撮られてたのかよ。だったらもっとイイ顔したのによ〜」
「お前は元からイイ顔してるだろ、って言われたいのか?どこまでも嫌な奴だぜ!」
「テメェも十分嫌な奴だな。さ、どの写真だ〜…?」

派手な髪型の人が居るお陰で、写真はすぐに見つかった。泣き叫んでいる遊戯、左右に広げられた遊戯の手に隠れてしまっているバクラ、目を閉じて寝ているマリク、完全に顔が引きつっている私…。

「オイ!テメェが手を挙げたせいでオレ様の顔がほぼ隠れてるじゃねぇか!!何で斜めに挙げるんだよ、縦に挙げろよ縦に!」
「バクラに手の角度まで指摘される筋合いはないぜ!崩れた顔が写らなくて良かったじゃないか!」

またも火花を散らせる二人。残念なことにバクラは口元しか写っていない。

「ねぇ、何でマリクは寝てるの?」
「そりゃあもちろん寝心地が良くてなぁ…」
「嘘でしょ」
「嘘です」

聞けば、マリクは始まってから何も考えずずっと目を瞑っていたらしい。通りで静かなわけだ。

「とりあえず休憩しようぜ。テメェらも疲れただろ…(余裕かましてたけど結構キツイな…)っておい、何処行くんだよ」

バクラの呼び掛けを無視し、反対側へと歩いていく遊戯とマリク。

「何言ってんだよバクラ。もう一度乗るぜ!」
「今度は目を開けて快感に浸るぜぇ」
「はあぁ!?」


その次に撮った写真では、遊戯は縦に手を挙げ、マリクはきちんと目を開け、私もいくらかマシな写りをした。バクラはイイ顔が出来なかったのかげっそりしていた。いや、げっそりしていてイイ顔が出来なかったと言うべきか。
今度来る時はみんなでイイ写りをしようね!
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