草刈り


軍手に作業着と言うデュエリストらしからぬ姿で佇む一行。

「ホントに草取り手伝ったらレアカードが貰えるんだろうな?」
「しつこいぞバクラ。一度言ったことを変えるつもりはない」
「草取りするフリして遊んでいても美味しいご馳走は食べられるんでしょうね?」
「仕事をしない奴に飯は食わせん」

海馬の別荘の一つにやってきた名前たち。
小遣い稼ぎのために海馬にアルバイトを紹介してもらっていた遊戯とバクラとマリク、そしてレアカードに惹かれた城之内は日給とレアカードを貰うことを条件に、名前は遊戯たちの倍の日給を貰うことを条件に草刈りをすることになった。草刈りの後は海馬邸のシェフが作るご馳走が食べられると言うのだから、なかなかお得だと思う。

「社長ともあろうお方が、別荘を雑草だらけにするなんてなぁ」
「昔取引していた人物から貰ったものだ。便利とは言い切れぬ場所にあるから一度も使用していない」
「どれだけほったらかしにしたらこんな状態になるんだ…。蟲野郎が好きそうな場所だぜ」

建物に続く小道だけは草が生えていなかったが、それ以外は見渡す限り草だった。身の丈以上はある草もちらほら生えている。軽い気持ちで草刈りをしようとした一行は軽く後悔する。

「でもよ、電動の草刈機があればさほど時間はかからねえんじゃねぇか?」
「確かに!これを手で抜いていたら陽が暮れるどころか朝日が昇りそうだものね」

それくらい用意してあると言い、使用人に草刈機を持ってこさせる海馬。
今回は別荘全体の掃除をするため名前たちは外の草刈りを、使用人たちは別荘内を掃除することになっている。使用人たちは時間がかるために午前中から作業をしているが、名前たちはさほど時間はかからないだろうと午後から集まった。
地面に置かれた燃料式の草刈機は五個。確かに人数分だ。だが、草刈機の使用方法を一通り教えてもらったところで一人の使用人が慌て始める。

「ど…どうしましょう…」
「どうした」
「瀬人様の分の草刈機を忘れてしまいました…」
「…お前はこの俺に外の雑草抜きをさせるのか?」

なんて天然な使用人なんだろうか。その場に居たみんなが吹き出す。使用人は顔を真っ赤にさせて持ち場へと戻った。少し気分を害された海馬は、夕方に此処に戻るとだけ伝えて去っていく。

「あの使用人なかなかやるじゃねぇか」
「将来有望だなぁ」
「いや、使用人的には無謀だったわね」


場所の分担をし、草刈機のベルトを肩にかけそれぞれ作業を始める。
だが始まって5分も経たないうちに、近くで作業をする遊戯にバクラが声をかけた。

「おい、王様」
「何だ」
「あのよぉ、オレ様の草刈機が動かなくなっちまったんだが何か知らねぇか?」

機械のことはよく分からないが、さっきの使用人が説明していた燃料タンクのことを思い出しバクラの草刈機の燃料を見る。

「あぁ、これ燃料が切れてるぜ」
「はぁ?何でだよ」
「使ったからだろ。元から少なかったんじゃないのか?使用人も燃料の替えは無いって言ってたし残念だったな」
「チッ。使えねぇ。使えねぇから使えねぇ。お前ちょっと燃料分けてくれよ」
「俺のがなくなっちまうから嫌だぜ」

ケチな遊戯のことは放っておいて、もっと簡単に分けてくれそうな人を探すことにするバクラ。城之内は、本来名前の処理する場所を「女一人じゃ大変だろうから」と言う理由で受け持ち、他の人より多くの場所を受け持っている。とすると、燃料が余ってそうなのは場所の少ない名前だ。

「おい、名前」
「ん〜どうしたのバクラ?」
「オレ様の草刈機の燃料が切れて動かなくなっちまってよぉ…もしよかったら燃料分けてくれないかなーなんて…」
「構わないけど…燃料交換の仕方知ってるの?」
「あ…知らねぇ…」
「仕方ねぇなぁ」

そのやり取りを見ていたマリクがバクラの場所も少し手伝ってくれることになり、バクラはマリクを神と崇める。確かに神と合体していたからあながち間違ってはいない。
バクラは地道に鎌で草刈りをすることになり、面倒ながらも持ち場に戻る。すると、先程まで草刈機を使っていた遊戯も鎌で草刈りをしていた。

「なんでてめぇまで鎌使ってるんだよ」
「…燃料が無くなった」
「ざまあねえな。ま、お互い一人で地味な思いをしなくて済んだな」
「そうだな。しかしながらムシムシするぜ。このムシムシ野郎!」
「何だよそのアレンジ」


一方、名前は突然出てきた虫に怯え、草刈機を持ったまま走り回っていた。

「うわーっ!ムシムシムシムシムシー!」
「危ねぇなぁ名前!チェーンソーを振り回すとかお前はジョンソンかよ」
「ちげぇよジェイソンだよ!」

叫びを聞いた城之内がツッコミながら現れるも、危険すぎて近付くことが出来ない。やがて虫はどこかに消え、名前の動きもようやく落ち着いた。

「もー…虫が出るなんて聞いてないよ」
「この草の数なんだから虫なんかいくらでも出てくるだろうが」
「でも、今走り回ったお陰で名前のエリアはほとんど草が無くなったぜ」

見ると、ほぼ草は無くなりそれどころか城之内に任せた場所の草もキレイに刈られている。自分の仕事は終わったが、まだ燃料は残っているためバクラのところへ手伝いに行くことにした。

「刈らせてもらおうか、この草々を!」
「いきなりどうしたよ王様」
「今流行ってんだぜ?知らないのか」
「知らねぇな」
「ハイハイ!遊んでないで草刈り草刈り!」

突然草刈機を持って登場する名前に驚く二人だが、手伝いに来たと言われ彼女を崇め始める。

「おおさすが名前様。ナムナム」
「遊戯、ナムはマリクくんのことでしょ」
「そうと決まればとっとと片付けちまおうぜ」

すぐそばで聞こえる電動音に仕事が減る喜びを感じ、遊戯とバクラの手もはかどる。
気が付けば、陽も暮れ始めていた。


「やっと終わったぜー!」
「ずっと屈んでたから腰が痛い…」
「オレ様も腰痛ぇ…」
「久し振りにまともなことしたなぁ」

結局燃料が切れたのは遊戯とバクラだけで、それ以外の三人はフルに使うことが出来た。作業時間は2,3時間だろうか。別荘内に居た使用人たちも、掃除が終わったのかちらほらと外に出てくる。

「にしても、別荘をプレゼントされるなんてどこの海馬かしらね」
「そうだよ名前、海馬のことだよ」
「一軒くらい譲って欲しいわよね〜」
「でもよぉ、同級生の指示で働かされてるって考えると何だか複雑な気分になるのは俺だけか?」
「城之内、それは相手が海馬だからより感じるんだと思うわ。あとそんなこと考えたら虚しくなるから止めましょう」

「ほぉ、随分綺麗になったではないか」

噂をすれば何とやら。海馬が現れ、そのまま別荘の中に入って行く。出てきたところで使用人たちを解散させ、別荘の周りを歩きようやく私達の元に来た。

「御苦労だったな。報酬と夕食は俺の家に用意してある。車に乗れ」
「腹が減り過ぎたからなぁ。ご馳走が楽しみだねぇ」
「レアカードレアカード!」
「お金お金!」
「海馬、腰の薬はないのか…?」
「無ければ帰りに何処かで買わせてくれ…」

海馬邸に到着した一行は、遊戯とバクラを除きすぐに食事を堪能する。腰の痛みを訴える二人は海馬邸専属の医者にシップと薬を貰い、少し遅れて堪能した。
待ちに待った報酬を貰い、五人の疲れはどこかへ飛んでいった。
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