破壊計画


某日、某所。オレ達は、世界を滅ぼすための計画を立てていた。今までは個人の力で戦いに敗してきたため、今回は皆で協力しようと集まったのだが…。

「何で破壊計画を立てるのにファミレスに居んだよ」
「仕方ないだろぉ。場所が無いんだから」
「そうだよ。それに腹が減っては戦が出来ぬって言うじゃん!」

場所に対して疑問を持っているのはオレ様だけなのか、向かいに座るマリクと名前は何も気にせずくつろぎ始める。

「おい!しかもメンバー少なすぎるだろ。何で素人の名前が居るんだよ!」
「素人とは失礼な。私だってちゃんと計画を立てて来たんだからね!」

と、メニュー表を見ながら喋る名前。お前はメニュー表に話しかけているのか?
どうやら他のメンバーは予定が合わなかったようだ。グールズは“高速バスで行く!秘境レアカード巡り2泊3日”の旅へ、ダーツはオレイカルコス発掘へ。ゾークはエジプト合唱団のバリトンに急遽呼ばれてしまった。
こんなんで大丈夫なのかと思いつつも注文を済ませ、早速本題に入る。

「じゃあまずはな…」
「ドリンクバーに行ってくるね!」
「話聞けよ!」

仕方無しにオレ様も飲み物を取りに行く。マリクが色んな飲み物をブレンドして、これがいいんだよとか言っていたが、アイツの味覚はどうなっているんだ。
そして今度こそ本題に入る。

「いいか。オレたちはここに遊びに来たんじゃねぇんだ。作戦を立てるために来たんだ。分かるか?」
「やだな〜ファミレスで遊ぶ人なんて居るわけないじゃ〜ん」
「おい、名前」

名前を呼ばれて名前が振り向くと、マリクが名前の顔に向かってストローの袋を飛ばした。

「ちょっとマリク!」
「や〜い、引っかかった引っかかったぁ」
「言ってるそばから遊んでんじゃねぇよ!!」

流石の名前たちも真面目スイッチが入ったのか、ようやく静かになった。やっと話し合える状態になったため、計画案を出す。

「いいか?世界を滅ぼすって言うのは並大抵の力じゃどうにもならねぇんだ。ゾークの力を持ってしても破壊することは出来なかった。だからよぉ、今度はオレたちから破壊するんじゃなくて、他の奴等に自らの手で破滅の道を歩んでもらうんだ」

オレ様の顔を見て息を飲む二人。お待たせしましたと料理が運ばれてくるが、運ばれてきた後も手を付けずに硬直している。

「ん…?何だ、そんなに難しい話か?」
「いや…具体的にはどんなことをして破滅の道に…?」
「そうだな…。まだそこまでは決まってねぇが、テメエ自身の一番大切なものを壊せばテメエの命は助かる、みたいな感じか…」

説明をしても相変わらず硬まったままのマリクと名前。最初から話が大きすぎたかと思い、とりあえずメシを食ってから二人の意見を聞くことにした。
オレ様がドリンクバーから戻ってきたらハンバーグの横に添えられているパセリが増えていたのは、決して気のせいではないだろう。アイツらはすまし顔をしていたが。


食事も終わり二人の案を聞こうとしたが、なかなか話をしてこない。勿体ぶるなよと急かしてみると、名前が口を開く。

「いや、ちょっと…あのさ。ちょっとさっきのバクラの考え、凄いなって思って。ちょっと吃驚しちゃったんだよね。ちょっと、ちょっとちょっと」

コイツ何回ちょっとって言うんだよ。しかも最後のちょっとだけリズム取ってるし。

「名前、ちょっと自信持ちなぁ。コイツはちょっとスケールのデカイ野郎だからちょっと仕方ねぇんだよ。千里の道も一歩からって言うじゃねぇかちょっと。だからお前のちょっとした計画もちょっと受け入れられるぜぇちょっと」

マリクに至っては語尾がちょっとになってるじゃねぇか。何気に難しい言葉出してきたし。
だが、その言葉に勇気付けられたのか名前は表情を明るくして計画を話し始めた。

「サーフィングデュエルをしない」

…え?一瞬で聞き取れなかったのだろうか。それとも聞き間違いなのか。聞き間違っていないのか。

「だから、サーフィングデュエルの禁止だってば!!」
「それと破壊はどう関係があるんだよ?」
「サーフィングデュエルが出来なかったら、イコールその人にとってのデュエルが出来なくなるでしょ?デュエルが無くなったら何も遊ぶものがないから、うわあもうおしまいだあ!ってなるわけ」

ならねえよ!この世界の人はデュエル以外にやることがねぇみてえじゃねぇか!しかもサーフィンしながらデュエルする奴なんて今まで一度も見たことがない。海にカードが落ちたらふやけて終了だろ。

「もう一つあるわ。前ならえの禁止ね」

…何かを禁止しないと気が済まないのだろうか。しかも前ならえって何だ。マリクもぽかんとしながら話を聞いていた。コイツも前ならえを知らないんだろう。きっと日本独自の文化なんだろうな、前ならえは。

「前にならえって何よ、上から目線で命令してきて。一番前の人は踏ん反り返って偉そうなポーズだし。スーパーマンみたいだわ。それに小さく前にならえって何!?何で小さいの?傍から見たらきっとマヌケなポーズなんだわ!それでも一番前の人は偉そうだし!逆に大きい前ならえなんて聞いことがないわ!」

名前は前ならえというものに対して何か恨みでもあるのか?その後、前ならえの熱弁が数分続いた。帰ったら宿主に前ならえについて聞いてみよう。

「…名前の熱意は受け取るぜ。じゃあ最後にマリク」


待ってましたと言わんばかりにメモ帳を取り出す。そして、びっしり書かれた内容を読み始める。

「イタズラ計画その1、全世界のボールペンの赤のインクと黒のインクを取り換える。これにより、大事な書類を赤のボールペンで書いてしまうという恐ろしいことが起こる。教師であれば、黒のインクで丸付けを行ってしまう。イタズラ計画その2、全世界のホチキスの芯を逆に入れる。これにより、いくらホチキスを留めようとしてもガチャガチャ鳴るだけで留まらない事態が発生する。尚、ホチキスの芯を入れ替えようとしても接着剤で固定してあるためフタが開かない。イタズラ計画その…」
「ちょちょちょちょちょっと待て。何だその案は」
「バクラにもちょっとが乗り移ったようだなぁ」
「う、うるせぇな!まず最初のイタズラ計画って何だよ」

予想だにしない計画に流石のオレ様も驚きを隠せない。隠してもきっとバレる。話を聞くと、こういう地味なイタズラが個人にストレスを募らせ、やがて自己崩壊するらしい。人間って案外脆いんだな。

「姉上サマが協力してくれたんだぜぇ。仕事でムカつく奴と会った時はボールペンのインクを入れ替えるって言ってたからなぁ」
「お前、この計画のことを気軽に話すなよ。何でお前の姉貴が協力してんだよ。しかもだいぶ陰湿なことしてるじゃねぇか」
「あ〜私もイタズラよくやるよ!この前もバクラの靴ひもをコッソリ解いたり、解いたままで可哀想な時は右と左を一緒に結んだり…」
「あれてめえだったのかよ!毎回出掛ける時に靴ひも解けてるなとは思ってたけど。宿主のお茶目なイタズラかと思ってたぜ」

思わぬ新事実を知ることになった。そしてマリクのイタズラ計画はまだ続く。歯ブラシのかためをやわらかめに変えるとかその逆とか。枕の硬さを変えるとかパソコンのキーボードのボタンを変えるとか…どれも地味なイタズラじゃねぇか。

「そして最後…これは遊戯を倒すのに持ってこいの話なんだぜぇ…」

マリクの目つきが鋭くなり、まるで今までがお遊びであったかのように空気が変わった。まるでと言うか普通にお遊びだった気もするが…。

「遊戯を倒すその簡単な方法は………変わった髪をしている奴には処罰を与えることだぁ!」

流れる沈黙。賑やかなファミレスの中で、オレたちの居る場所だけが異様なオーラに包まれている。

「あのよぉ…。それ、遊戯だけじゃなくて他の奴等も処罰されるんじゃねぇのか?」

真っ先に思い付いた疑問を口に出す。変わった髪というのがどのくらいの範囲なのか分からねぇが、一般的でなければそれは変わった髪として取り扱われちまうんじゃ…。

「あぁ?でも姉上サマは言ってたぜぇ。アメリカのテキサス州に、子どもは変わった髪型をしてはいけないと言う法律があるって」

これでテキサス州に遊戯を連れていけば…とニヤニヤするマリク。それは遠まわしにお前も処罰されろって言ってんじゃねぇのか…。イシズこえぇ。


そして、これで全員の案が出揃ったことになる。何だか後半は全く別の話になっていた気がしてならない。

「ん〜、みんないい計画を立ててたんだね!私ももっと考えてこなきゃ!」
「次はメンバーがちゃんと集まってくれるといいな」
「あーあ。私もグールズとレアカード巡り行きたかったな〜」
「これだと破壊なんか当分出来ねぇよ…」

そもそも、コイツらと話してたら世界を滅亡させることなんかどうでもよくなってきた。世界って広いしなぁ。オレ様が宇宙だったら、地球を飲みこんで支配してやるんだけどなぁ。今度、銀河系のDVDでも見ようかなぁ…。
ただ、一つ学んだことがある。別に自分の髪がおかしいと思ったことは一度もねぇが、テキサス州には近づかないようにしよう、と。
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