Luna


彼は言った。どうしてそんなに死に急ぐのかと。生きている時間を大切にしろと。まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
マリクが消えたら私も死ぬ。自殺を仄めかすような言葉に、鼻で笑われるか、勝手に死になよと返されるだろう思っていた。だが返答は違う。私が想像していた答えも私自身の答えも間違っていた。そして差し出される手。この手のひらの温もりが、ずっと続くと思っていた。



暗闇の中を歩く親子の姿。私と、我が子の姿。彼が消えた場所はもうない。アルカトラズはあの日崩れた。だから、アルカトラズへと続くこの海辺からせめてもの想いが届けばと。

「やっぱりよるはくらくてこわいよぉ…」
「お月さまが照らしてくれるじゃない」

浜辺に寄り添って座り夜空を見上げる。月はどこか彼と似ている。陽の光の下には姿を見せず、深い闇の中に存在を現す。そしてその中でより一層強く鼓動する。
目の前に居るかのようにはっきりと思い出せるその姿。髪は白金に輝き、瞳は闇を帯びている。その紫の瞳は光を飲み込んでしまうくらい底無しで。闇の中で太陽神を操る彼は、様々なものを超越した美しさを持っていた。考えてみればそれらは対照的だ。月が太陽を反射して輝きを得ているように、もしかしたら彼は太陽に…。

「ママはおつきさまがすきなんだね」

我が子の声ではっと我に返る。お月さまがパパに似てるからかな、と呟くと、不思議そうな顔で此方を見つめた。子どもの手を取り海辺へと誘う。この時だけは三人で居られる気がした。





手を繋ぎ散歩に出掛けていると、子どもが突然足を止めた。どうしたの?と顔を覗くと、青い空を指差し口を開く。

「おつきさまはおひるにもみえるよ!」

だからパパはいつでもいっしょなんだね、と。見ると、白い月が青空の中に映えていた。無邪気に笑う我が子に彼の面影が映る。
大事なことを忘れていた。確かに彼の実体は無くなってしまったが、彼は私の心の中に存在している。記憶と共に。そして太陽のようにあたためてくれるのだ。あの日彼が与えてくれた命を、温もりを、今度は私が捧げなければ。
涙が零れ落ちぬよう、空に浮かぶ月を見上げた。
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