ドライヤー


※捧げ物です。



一日の疲れを癒やすべく、ゆっくりと湯に浸かる。入浴剤の香りも湯のなめらかさも浮かぶ花びらの可愛らしさも、それぞれが身体に沁み渡っていく。そのまま寝てしまいそうになったが、のぼせてしまう前に上がらなければと思い名残惜しくもバスルームを後にする。
リビングに向かうと、濡れたままの髪でテレビを見て笑う人物が一人。

「ちょっと、髪の毛乾かしなよ」
「あぁ?ドライヤー使ってっと暑くてしゃあないんだよ」

自然乾燥だぜ、と口にするバクラだが髪の毛からは水が滴り落ちている。季節は夏。確かに夏のドライヤーは暑い。

「床が濡れるし、風邪引いちゃうよ?」

せっかくの綺麗な髪の毛が台無しになっちゃうじゃないと言うと、面倒臭そうにこちらを見る。

「オレ様はテレビを見るのに忙しいんだ。それに名前だって乾かしてねぇじゃねぇか」

確かに私は、濡れた髪をタオルで巻いている状態だ。だが、先にお風呂に入ったバクラの髪を乾かす方が優先である。

「もう…私が乾かしてあげるから。ちょっと待ってなさい」
「ふーい」

まるで親子みたいなやりとりだなと思いつつ、ドライヤーを取りに行く。
明日は久々のデートだから、バクラが私の家に泊まりに来た。だが、ここで風邪を引かれてしまってはデートの計画がおじゃんになってしまうのだ。


リビングに戻り、持ってきたドライヤーのスイッチを入れる。彼の髪からシャンプーの香りが漂う。自分と同じシャンプーの香りなんだなと思うと、思わず顔が緩む。そういえば、さっきまでテレビを見て爆笑していたバクラがやけに大人しい。

「どうしたの?」
「なんか…名前にドライヤーされるのって、恥ずかしいな…」

横からバクラの顔を覗くと、ほのかに頬が赤く染まっていた。照れているのだろうか?
顔赤いよと指摘したら、ドライヤーの風が熱いからだと返される。
そう言えば前にも同じようなことがあった。私がくしを忘れてしまった時、バクラが手ぐしで髪をとかしてくれた。そして、髪をとかす彼の手つきに何故だか分からないけれど恥ずかしくなった。いや、あれは好きな人に触れられていることが嬉しくて、なんだか恥ずかしかったんだ。もし、今のバクラがあの時の私と同じ気持ちだとしたら…。
ドライヤーを止め、すっかり乾いた彼の髪に手ぐしを入れる。

「綺麗な髪。私この髪、好きよ」
「髪だけが?」

そんなはずないでしょと言い、後ろ髪に顔を埋めて首に手を回す。まだ残るドライヤーの熱が少し暖かい。

「なぁ、名前…」

バクラが声をかける。髪に埋めていた顔を上げると、あついからちょっと離れてくれと言われた。顔を覗けば、ほら、また赤くなってる。

「私が触れると赤くなるのね」
「ちげぇよ!ドライヤーの後だから暑いんだよ!」
「私はね、バクラに触れられると、いつもあついよ。心臓ドキドキしちゃって。嬉し恥ずかしみたいな」

バクラから言わないのなら私から言う。すると座ったままの彼が振り返り、そのまま抱き締められた。お互いの顔は、見えない。

「オレ様も、だ」

キスを交わす。あつい。きっと今の私の顔は真っ赤だろう。でも、このあつさなら、平気かも。もっとあつくてもいいかな。
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