既視感


彼が消えていく。これは夢だと思い、息を止める。そうしたら、苦しくなって夢から覚める。さっきから眠る度にこの夢を見る。もう何度目だろうか。時計の針は3時を回っている。不安になってマリクの部屋に行くと、案の定彼は起きていた。

「やっぱり起きてたんだ」
「こんな夜中に何の用だぁ?」

ベッドに腰掛ける彼の隣に座る。彼の首には千年リングがぶら下がっており、バクラとも闇のゲームをしたことが伺える。

「マリクが消える夢を見たの。寝る度に何度も何度も」
「消える?オレはここに居るじゃねぇか」

ほら、と言い彼は私を包み込む。心臓の鼓動が聞こえ、温もりを感じ、マリクの生を実感する。

「マリク…お願い。居なくならないで…」

愛しい人がここに居る安心感ともしものことに対する不安で涙が込み上げる。

「名前、オレは居なくなったりしないぜぇ?そもそも何でそんな夢を見るのか疑問で仕方ねぇなぁ」

そう言って私が泣き止むまで抱き締めていてくれた。あまり長居をすると試合を控えるマリクに迷惑がかかると思い、部屋を後にする。おやすみのキスはなんだか切ない味がした。


まただ、またこの夢だ。彼が生贄となり、主人格にサレンダーされて消えていく。息を止める。今までの経験から、10秒くらい止めていれば夢から覚める。おかしいな、10秒が長い。苦しさばかりが募っていく。身体が痺れ、我慢できずに呼吸をしてしまう。嗚咽混じりの咳が出る。痛みを感じなければ夢から覚めない。そうだ、と思いデュエルタワーから飛び降りる。

「名前!?」

誰かの声が聞こえた。あれは杏子だろうか。夢だから大丈夫。流石に目が覚めるだろう。心臓の鼓動が聞こえる。これは私の心臓?そう、私は生きている。でも彼はさっき、消えた。地面に向かって落ちていく。まだ覚めない。
あぁ、やっと気が付いた。どうやら私から、夢の世界に行ってしまったようだ。地面まであと、数センチ。
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