※少しだけ「どっかん」と繋がっていますが読まなくても問題ないです
テレビの右上に表示されている“アナログ”の文字。ここ最近は画面の下にも地デジのお知らせがあるもんだから、テレビが見にくくて仕方が無い。
「名前の家は本当にアナログだったんだな」
「仕方ないじゃない。わざわざ買い替えるのが面倒だったんだもん」
最後のアナログ放送を見ようと、遊戯とマリクとバクラが私の部屋にやってきた。テレビでは丁度、海馬ランドの特集が放送されている。そこに映っているのは勿論海馬自身。
「ほぉ…。海馬自らが地デジのカウントダウンでもするのかねぇ」
「今!アナログ放送から地上デジタル放送へと移…「ピーンポーンパーン。ご覧のアナログ放送の番組は本日正午に終了しました。今後はデジタル放送をお楽しみください…」」
海馬の話の途中でブルースクリーンへと画面が切り替わる。
「おいおいダッセーーー!!アイツの話の途中でアナログ終了しちまったよ!」
「最後までやらかしてくれたな海馬!」
「局の人間の処分が心配だねぇ」
大爆笑する一同だが、これではもうこのテレビを見ることは出来ない。リビングに行けば地デジ対応のテレビがあるが、やはり自分の部屋にもテレビが欲しい。
「で、テレビどうすんだ?」
「チューナー云々より、もう新しいテレビ買いに行こうかなって思ってるんだけど…」
家電量販店までは歩いて3分くらいで行けるが、テレビを持ち帰るのが大変だ。親に頼もうにも父親が出張で車を使ってしまっているため家に車が無い。何より、こんな暑い中外に出たくない。
そこでふと、前にこの3人が勝手に家に入りお菓子を食べたり録画を消したりしたことを思い出す。
「そうだ…誰か私の代わりにテレビ買いに行ってよ!」
「「えぇ?」」
いきなり何を言い出すのかと驚く3人だが、名前は話を続ける。
「この前うちに不法侵入して散々やらかしてくれたのは誰だったっけかなぁ…」
「いや、あれは事故のようなもので…。なぁ?」
賛同を求める遊戯だったが、バクラもマリクも既に白旗をあげている。
「じゃあ決まりね!」
「だがよぉ、一体この3人の誰が行くんだぁ?」
じゃんけんしかねぇだろ、と言おうとしたバクラを遮り、遊戯が案を出す。
「それならデュエルで決めないか?」
コイツ…!デュエルで時間稼ぎをしてテレビを買いに行く時間を無くすつもりなんだな!遊戯の名案に賛同しようとした二人だったが、
「いや、それは時間かかるから手短にじゃんけんで」
あっさりと名前に否定されてしまった。
そして…
「っしゃあ!勝った!」
「こんなクソ暑い中テレビを運んでくるのはキツいぜぇ」
「まぁ負けたんだから仕方ないだろ」
一発でじゃんけんに負けたマリクが買いに行くことに。お金を渡し、変なテレビを購入されては困るため店員のおススメを購入してくるように念を押す。
渋々買いに行くマリクを見送り、部屋に戻る。
「でも、ホントにマリクに行かせてよかったのか?テレビが電気屋に売ってるってこと知らないんじゃないか?」
「アイツのことだから、テレビと間違って電子レンジを買ってくるかもしれねぇよ?同じような形してるしさぁ」
そう言われると若干心配になるが、道もちゃんと教えたし店員のオススメのテレビを買うように言ってあるから大丈夫だろう。
二人を部屋の外に移動させ、リビングのテレビで海馬ランド特集を見ながらマリクの帰りを待った。
しばらくすると、家の前に一台の小型トラックが止まった。何だろうと思い玄関を開けると、そこに居たのは家電量販店の店員とマリク。
「あれ?おかえり」
「ただいま」
てっきり台車で運んでくると思っていたため、トラックで来たマリクに驚く。
「ちゃんと買ってきたからなぁ。ったく、電気屋大混雑だったぜぇ…」
「ありがとう。でも、近所に住んでる人なら台車サービスがあるはずだよね?」
「いやぁ、あんな大きなモン台車でなんか運べないだろぉ?」
え?と思いトラックの中を見ると、テレビが入っているにしてはやたら大きな箱があった。でもパッケージにはテレビの写真が載っている…。
「これ…うちのテレビ?」
「そうだぜぇ。店員のおススメもあったが、客もやたら欲しがっていたからなぁ」
いや、どう考えても大きい。52Vって書いてあるぞ…52インチ…!?今私の部屋にあるのが22インチだと言うのに!?
「あの…これって何センチくらいあるんですか?」
恐る恐る店員に聞いてみる。
「んー、52型だから横幅115センチくらいですかね〜」
「ええええぇ115センチ!?」
名前の声を聞いて、遊戯とバクラも玄関先にやって来る。
「何が115センチなんだ?」
「テレビの大きさよ!いくらなんでも大きすぎる!」
「映画館みたいで良いじゃねぇか」
「良くないわよ!むしろ目が悪くなりそうだわ!」
文句を口にする名前を見て、マリクが割って入る。
「おいおいせっかく買ってきたのに何が不満なんだぁ?」
「大きさね。本当に店員のおススメだったの?」
「そりゃあなぁ。この中で一番大物のテレビはどれだって聞いたんだから…」
大物?いや、まあ人気のある人物は大物とか言うけれど…。テレビ売り場で言ったらそれは…
「なので、お客様の所持金で買える一番大きなテレビをご紹介させて頂いたんです!」
自信あり気に答える店員。確かに間違ってはいないが、とんだサービスをしてくれたものだ。だが、この大きさのテレビはそれ相応のお金がないと購入できないハズである。
「名前、マリクにいくら渡したんだ?」
「えっと…30万くらいかな」
予想を遥かに超えた金額を言われ、遊戯とバクラは驚きを隠せない。
「えええええっ!?おいおいマジかよ。どっからそんなお金が出てくるんだ?」
「この前宝くじが当たってさぁ〜。私が言った番号を親が買いに言ったら当選して、賞金分けて貰ったんだよね」
「にしてもテレビに30万って…」
「だって海馬くんにテレビの値段聞いたら、手ごろなのは30万くらいじゃないかって言われたんだもん」
「アイツの金銭感覚はオレたちとは違うんだぜ」
これは正直誰も責められない。マリクの大物発言も、店員の大型テレビの紹介も、海馬のとんだ金銭感覚も。しいて言えば、自分で買いに行かなかったのが悪い。
「し、仕方ないわね…。あの、これ返品出来ますか?」
「あ、はい。まあ時間はかかりますが」
ちょっとお店に行ってくるわ、と言いトラックに乗って家電量販店に向かう名前。そして取り残された3人。
「オレたちはどうするよぉ?」
「名前が鍵もかけずに家を離れちまったから、留守番でもしてようぜ」
「テレビを見てるだけなら何も言われないだろう。他のものに触ったら前と同じことになるから、勝手なことするなよ!」
この前上書き録画をした張本人の発言は、説得力があるのかないのか…。
数分後に帰ってきた名前に特に怒られることもなく、その後は新しいテレビを見て過ごした。そして、自分のことは自分でやろうと心に決めた名前であった。