ネビル・ロングボトム


二年の頃、突然全教科の助手をする先生が来た。上級生ですら聞いたことのない立場。ダンブルドアに紹介されて立ち上がった女性はざわついたテーブルをぐるりと見回したあとにこりと笑った。僕がいた七年で一番の拍手だった。

初めて話したのはマンドレイクの植え替え授業。好きな薬草学でもやっぱり僕はヘマをする才能があって、エバンズ先生は耳当てをするよう僕に指摘したあと、じっと僕を見ていた。いつもの笑みがないのは授業中だからではなく、だからといってスネイプのような鋭い目でもなかった。あの目の意味を問おうとは思わない。でも今でも思い出せる、不思議な見透す目だった。

先生ははっきり公私を分けるタイプだった。授業中とそれ以外。授業中は厳しいところもあるけど、ひと度休憩時間になれば躓いてばかりの僕にも勉強を教えてくれたし呪文の特訓もしてくれた。スネイプから庇ってくれたこともある。

この年のバレンタインは凄かった。何が凄いって、もう、色々。面白がってジョージは先生にキューピッドの歌を贈っていたし、感想も反応も聞けないって後から気づいて嘆いてた。噂ではスリザリンの七年生が本気で先生に贈ったとか。


三年になって、ルーピンが来た。二人はいつも隣で、たまにスネイプも加わって、何だか楽しそうに見えた。実際は違ったんだろうけど。だってスネイプはいつも不機嫌だったし、エバンズ先生が困ってるなって僕でも気づく日があった。スネイプは一人で座ってるときも、ルーピンとエバンズ先生を見てるときがあった。睨んでるって表現が正しいかな。シェーマスが何故か上手に座りたがるから、どうしても僕の目線の先に先生たちがいた。

初めて受けたエバンズ先生主体の授業、どうして突然人狼なんだろうってみんな思ってた。答えは学年末に判明した。あの時先生が出したレポートを僕は結局出してない。上手く言葉にできなかったことを、今なら言えるかもしれない。直接本人に。でももう必要ない気もする。ルーピンにはトンクスがいるから。


四年生は三校対抗試合があって学校中が湧いていた。ボーバトンやダームストラングの生徒がやって来て、ハリーが代表選手になっちゃったり大変だった。

先生が学校中の噂になったのもこの年。ダームストラングの生徒に熱心に口説かれてたり、ルーピンとデキてるんじゃないかって言われたり。ダームストラングの彼に靡くかどうか、フレッドとジョージが賭けてるところをスネイプに見つかって、何故か僕まで一緒に罰則を受ける羽目になった。大人たちは過去を振り返って「楽しい思い出だ」って言うけど僕にはまだ早いかな。

第三試合の迷路から戻ったハリーはヴォルデモートの復活を告げた。みんな半信半疑で、僕も信じたくなかった。でも夏休み中によく考えてみた。真実はどこにあるのかって。ばあちゃんはダンブルドアが言ったなら復活は本当なんだって言ったけど、僕はハリーが言ったなら本当なんだって思った。


五年生は最悪だった。魔法省からアンブリッジが来たから。でも最悪だったからこそ素晴らしい出会いもあった。

ダンブルドア軍団、それが僕の変わったきっかけ。

集まりのある日、僕が必要の部屋へ向かうとエバンズ先生がいたときがあった。バレたんじゃないかってヒヤッとしたけど、杞憂だった。でももしかしたら知ってはいたんじゃないかって。先生は近くを通りかかったフィルチに声をかけ、遠くへ連れていってくれたから。

この時アンブリッジが大好きだった罰則の羽根ペン、みんなが被害を和らげることができたのは先生のお陰だったんだって先月ポロッとフレッドが暴露した。すぐにジョージに怒られてたけど僕は知れて良かった。お礼を言う相手が見つかったから。ハリーは頑なに使いたがらなかったけど、僕は本当に助かった。

忘れられないのは、ロンのパパが襲われたってハリーが夢に見た日のこと。談話室を飛び出した僕に声をかけた先生は月光の陰り以上に体調が悪そうだった。まるでハリーの夢の話を聞いた後のような。休暇明けにロンから聞いた話では、先生の迅速な対応のお陰で彼のパパは助かったんだって。しばらくはかっこいい先生の対応を真似して見せるのがロンの流行りだった。


六年生は……今考えればエバンズ先生とスネイプがあまり一緒にいなかった気がする。でもハリーがエバンズ先生に怪我をさせてしまったときにスネイプが助けたらしいから、記憶違いかも。後日謝りに行ったハリーを先生は笑って許してくれたって。いつも笑顔で優しい先生。でもお説教の一つもないのは驚いた。その代わりスネイプとマクゴナガルからハリーはこっぴどく叱られたらしい。

そして、ダンブルドアが亡くなった。僕もみんなも怪我をして、エバンズ先生もスネイプに攻撃された。でも助けたハーマイオニーたちやルーピンを振り払って先生はホグワーツから出ていった。スネイプに何か呪文でもかけられてたんじゃないかって話題にもなったけど、先生は次の日にひょっこり帰ってきた。みんなダンブルドアの死でいっぱいいっぱいだったから深く追及はしなかった。

あの時先生はスネイプを探しに行ったんじゃないかって僕は考えてる。会えたのかは、分からない。でも先生はとても穏やかだったから、会えたんじゃないかって言うのが僕の想像。


七年になってすべてが変わった。世間も魔法省も日刊予言者新聞もそしてホグワーツも。僕とルーナとジニーはレジスタンスとして頑張ってはいたけどできることはたかが知れてた。エバンズ先生の方が色々やってたんじゃないかってくらい。先生方はみんな僕たちを守ろうとしてくれてたけど、カローたちに面と向かって楯突いたのを見たのはマクゴナガルとエバンズ先生だけ。先生方に迷惑がかからないように、僕たちは活動を少し抑えた。

戦う前の二週間はとても充実してた。先生が加わってからは尚更。僕は初めて有体の守護霊を出せたし、シェーマスは失神呪文が格段に上手くなってた。ダンブルドア軍団が数人集まれば、必ずこの日々が話題に上る。もちろん、先生のことも。

先生が僕たちを置いてスネイプと共に出ていったとハリーに聞かされたときは、正直ヴォルデモートの復活よりも信じられないことだった。だってみんなどれだけ先生が僕たちのために動いてくれてたのか分かってたから。先生の残したフェリックス・フェリシスは本物で、これがどれだけ頼りになって入手が困難かくらい、ハーマイオニーが言わなくったって分かってた。

スネイプがずっとダンブルドアの下で動いてたんだって分かったとき、エバンズ先生の行動には何も矛盾がなかったんだって、やっと腑に落ちた。

僕たちにとっての幸運は先生がいたことだってジョージが言った。僕も本当にそう思う。あの日少なくない仲間を失った。それでも幸運の液体に救われた仲間も多い。

これは誰にも言ってないことで、ルーナにはバレてるかも知れないけど、実は僕、フェリックス・フェリシスを飲まなかった。自分でも驚き。それでもあの時はそれが一番だと思ったし、先生との二週間が僕に自信をくれてた。周りが幸運だらけだったから彼らを真似るのは簡単。飲んだふりして僕の分の幸運はルーピンに渡した。彼はそれをトンクスに渡したらしい。




先生がもう半年以上眠り続けているなんてまだ信じられない。

反応のないお見舞いもこれで三度目。いつ来ても病室にはスネイプがいた。後処理や裁判で彼も忙しいはずなのに。

ハリーから彼の秘密や人間らしい部分は聞いたけど、どうしても苦手意識は抜けなくて、挙動不審になる僕のためなのか、彼は僕と入れ違いに病室を出る。数年前なら、ただ自分が嫌われているだけなんだと思ってたはず。

スネイプにとってエバンズ先生がどんな存在かは僕にも想像がつく。

去年一度だけ、夜に出くわしたことがある。ダンブルドア軍団募集の貼り紙をホグワーツ中に貼っていたときだった。カローたちに見つかりさえしなければ、他の先生方は見逃してくれていた。だから夜の廊下への警戒も最低限になってしまっていた。

僕の見たスネイプは、廊下の角にじっと佇み、耳を澄ませているようだった。気配を殺していた彼に僕が気付いたとき、彼も僕に気付いたと思った。咄嗟に隠れはしたけど見付かる覚悟をした。けれどどれだけ待ってもその時は来ない。あの時は見つからなかったんだと安心したけど、本当は、他の先生方と同じように彼も僕を見逃したんだと思う。罰さずに済むように。

少し待って彼が何を聞いていたのか気になって、彼のいた場所へと僕も行ってみた。そこで聞こえたのはエバンズ先生とマクゴナガル先生の会話。聞かれて困るようなものではなかったけど、僕は当然、スネイプは何か情報を得るために盗み聞きしてたんだと思った。

今となっては、他に理由があったんだと思える。ただ姿を見たかったとか、声を聞きたかったとか、無事を確かめたかったとか、見守ってたとか。エバンズ先生がアレクトに言い寄られていたのは僕も見たことがあったから。


噂では、とうとうダンブルドアの死に関してもスネイプの裁判が始まるらしい。ハリーはスネイプに非はないと言っているし、何としてでも無罪にすると意気込んでいた。自分がしなきゃならないことだって。ハリーがそこまで入れ込むなら、きっとそうなるんだろうって僕は思う。その時は、「おめでとうございます」って言ってみようかな。


「また来ます、エバンズ先生」


病室を出れば、扉のすぐ側でスネイプが腕を組んで待っていた。彼は何も言わないし、僕も何も言わない。


今はね。


ヴォルデモートの前に出て、グリフィンドールの剣を取り出しナギニを切ったことに比べれば、自分からスネイプに話しかけることくらい、大した勇気は要らないはずなんだから。


なんて、

エバンズ先生、早く起きてください。

思い返す度、言いたいお礼が増えるんです。

それにやっぱり僕、彼のいる病室はちょっと苦手です。






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