2013/04/21 04:55
Lacrimosa【ピンドラ】













僕は運命って奴が音楽並みに嫌いだ。


運命ってヤツは、理不尽で、無慈悲で、気まぐれなんだ。
欲しくもなかった才能のお陰で、僕の兄さんは捨てられた。
兄さんは"選ばれなかった"んだ。


母さんが嫌い。
上辺しか見ない大人が嫌い。
兄さんを蔑ろにした、運命の女神ってヤツが大っ嫌いなんだ。


今でも覚えてる。
あの時、僕を見ていた兄さんの目を。
兄さんの指が、何重もの不協和音と共にへし折れた音を。






―――ああ、そうさ。
僕は、僕自身がこの世界で一番嫌いなんだ。









【make you "HAPPY".】










「・・・で、君は陰ながら自分の兄さんを支えているのかい?
痺れるねぇ。」

「なんか悪い事でもあるのかよ、幽霊。」

「いや、別に?
ただ、愛の力って偉大だなぁと思っただけだよ。」

「・・・これ以上胡散臭い事言うなら、シラセとソウヤ兎鍋にして食っちまうぞ、この歯磨きマンが。」

「酷いですー。」

「煮られるのは嫌ですー。」

「・・・君って本当に口が悪いよね。」




うっさいあほんだら、と悪態をつきながら、俺はソファーで足を組んで優雅に座っている眞悧を睨みつけた。





兄さんの事を、俺は俺なりに探してたんだ。
才能に、富に溺れた両親を欺きながら、資料や新聞、色んな所を歩き回って。




指の怪我、子供ブロイヤー、燃えた女の子、時籠ゆり、16年前の事件、電車、兄さんの好きだった人。



―――運命を乗り換える者、"荻野目桃果"。






掴んだ、そう思った。
そう思った瞬間に、コイツに捕まったんだ。
捕まって、何も進めないまま、今に至る。



・・・我ながら、下らない人生だと思う。
(やっと自由に、表立って動ける筈だったのに)(何の為に1人暮らしを始めたと思ってるんだ)(少なくとも、兎2羽と幽霊1人を飼う為ではなかったのは確かだ)






「人生は理不尽なんだ。
そうなるように、予め定められてしまってるんだよ。」

「人の思考を読むな、ボケ。」




変態。たわけ。馬鹿。
どれだけ悪態ついても、コイツはヘラヘラと笑ったまんま。
・・・気に、食わねー。
何で俺みたいなヤツに付き纏ってんだか。
(さっさと次のオモチャ探しやがれってんだ)

はあ、と大きなため息をついてから、俺はベットに腰掛けた。




「・・・別に、踊らされたっていいんだ、運命とやらに。」

「へえ?」

「踊らされたっていい。
ただ、兄さんは幸せにする。
兄さんは、幸せになるべきなんだから。
その為には、運命の乗り換えだって、世界の破壊だって、なんだってやってやる。」

「・・・それで、それが終わった後、君はどうするんだい?」

「別にどうも?」




相変わらず顔色を変えない眞悧の問いに、俺は嗤いながら答えた。



兄さんが僕の"兄さん"じゃなくなった。
そうなったのは、俺のせいなんだ。
兄さんを独りにしたのは、籠から出られなくしたのは、俺だから。




「眞悧、俺はもうどうでもいいんだ。
兄さんを幸せにしたら、俺は消える。
それで兄さんは完全に幸せになれるんだ。」

「・・・だよね。」


兄さんは幸せになるんだ。なるべきなんだ。
そう繰り返して呟く俺の隣には既に眞悧は居なかった。








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ヤンデレってどれくらいやったらヤンデレなんだろうね。
因みにタイトルの『Lacrimosa』は鎮魂の為のミサの典礼文から。
和訳だと『涙の日』です。