2013/04/21 05:14
死因:ストーカーのスタンガンでうっかり感電死。【転生ネタ(サイコパス)】










「え、お留守番すか。」



ガビン、なんて奇妙な効果音を口にする猟犬を見て、飼い主に当たる宜野座伸元は深いため息をついた。
昨日から続く曇り空は更に色を濃くし、地面を打つ雨音は激しさを増してきている。
・・・だからとはいえ、その手に持っている黄色の雨合羽はどうかと思う。遠足か何かと勘違いしているのではないのだろうかコイツは。


決して今から行くのはピクニックなどではない。
潜在犯という獲物を狩る為の、ハンティングだ。



「対象のデータは見ただろう。
今回の事件の犯人は人質を拉致しての逃走中。
しかも逃げ込んだ区域は浮浪者の巣窟だ。」

「・・・そうだっけ?」

「っ、事件前に概要を叩き込めと何回言えば覚えるんだお前は!!」

「別に、全部狩ればいいじゃん。」



毎回毎回同じ事を繰り返す奈留に宜野座はこめかみを引き攣らせるが、当の本人は反省する所か口を尖らせて文句を言う。
――傍から見れば開き直っているように見えるが、その目は血に飢えた獣の本性が滲み出ていた。

南部奈留は、曲者揃いの執行官の中でも一層癖のある人物である。
プライベートの間は同年代の縢秀星のように歳相応の若者で、マイペースかつ人懐っこい一面が垣間見える。
しかし宜野座にとって、それは狼が羊の毛皮を被っているだけにしかすぎない。
ひと度狩猟場もとい現場に駆り出せば、獲物を射止めるまでひたすら相手を追い詰め、いたぶり、狩る。
その姿は猟犬と呼ぶよりは、首輪のついていない野生の獣と言った方がお似合いだった。
(それでも最初の頃と比べて随分飼い慣らされてはいるが。)

奈留が獲物を追う姿はあまりにも残酷で、見た人々は強烈なストレスを引き起こす。
今回のケースのように犯罪の火種になりかねない者が大勢いるような所に『歩くサイコハザード源』が彷徨き回ったら2次災害がとんでもない事になりかねない。
何より話を聞かず単独行動で突っ走るコイツが虱潰しに追い詰めるなんて作戦に従うなんて到底考えられなかった。
何故こんな人間を執行官に選んだのか。それは神の目を持つシビュラのみぞ知る。


“獣”の思考へとスイッチが入りつつある奈留との間にギスギスとした雰囲気が流れる。
・・・が、それもポンと奈留の背中を叩いた人物によって途切れた。



「まあそんなに怒ってやるもんじゃないさ。」

「征さん、」

「今回はたまたまお前が活躍出来る現場じゃなかった。
ようは適材適所というやつだ。また近い内に出番がやってくる。
それにせっかく物好きが来るのに直ぐ退場してしまったら、今度こそあまりの人手不足に睡眠時間すら削られる程酷使されるかも知れないんじゃないのか?」

「ゔっ!」

「あーそういえば今日だったっすね新人の監察官チャンが来るの。
配属初日からぶっつけ本番とか災難だな!ギノさんも来るなって言うぜそりゃ。」

「今日ばっかりは仕方ないわ。」



征陸の親切、かつ的確な指摘に奈留は苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
彼の言葉にお気に入りの青いジャケットを来た縢がケラケラ笑いながら揶揄する。
その後ろから、六合塚がいつものように表情を変えずクールに言い放った。

征陸の言葉通りである。
『歩くサイコハザード』現象は『飼い主』にも容赦が無かった。
何回にも及ぶ厳正な試験とサイコパス判定に勝ち抜いたハズの優秀な監察官が、就任してたった1日で更生施設送りにされた事は一度や二度では無かった。

同僚の執行官に囲まれて奈留はしばらくの間言い淀んでいたが、諦めがついたのか仕方がないかぁ。と言いたげにため息をついた。
(そのションボリとした様子はまるでおあずけを食らった犬のようである。)(・・・こいつは羊の皮を被った狼であって、決して耳としっぽを垂れ下げたワンコではないと宜野座は内心で何度も暗示をかけた。)



「・・・分かりました。
大人しく不貞寝しています。」

「そんな暇はない。
今日締切の書類と始末書、忘れたとは言わせないからな。」

「うぇ、マジで?」

「唐之杜に監視は頼んでいるから、サボらずさっさと完成させておけ。」

「宜野座さんの鬼ー・・・。」

「まあドンマイだな。」



奈留に書類仕事を言いつけた後、宜野座は踵を返してサッサと部屋から退出した。
執行官達も現場へ出動する為にぞろぞろとその後ろを着いていく。
最後に机に突っ伏した奈留の頭をわしゃわしゃと撫でた狡噛が出ていって、辺りは静寂に包まれた。



「ちぇ、ついてないなぁ。」





≪ならば仕事を与えましょう。南部奈留執行官。≫




やるせなさに嘆息している所で無機質な声が響く。




≪現在地区外も含めて計7件の異常値サイコパスが計測されました。
これは彼らの言う貴方が活躍出来る内容であるでしょう。
各データと座標を添付するので、速やかに現場へ急行して下さい。≫


「(・・・本当についてないなオイ。)」




対象者以外には聞こえない、思考性音声ガイド。
本来ドミネーターを手に持たない限り聞こえない筈のその音は、確かに今奈留に語りかけていた。
それに驚くことはない。常日頃の事だ。そう、いつもの事。

既に奈留の目からは燃え滾るような熱も、無邪気な輝きも失せていた。
硝子のように冷酷で冷徹で無関心な瞳へと移ろいでいく。
(まあガラスじゃなくてプラスチック製だけど。)

ただちに二手に分かれて執行する。と声を挙げる事なく返信した後、南部はそっと瞼を閉じて眠りにつく―――もとい、離れた地にある予備の身体2体を稼働すべくシャットダウンを行なった。







その獣の飼い主は、監察官ではなく。

そいつは神様の元で、番犬として飼われていた。










***
ちょこっと所じゃなくなっちゃった。
マイペース系ガキンチョ執行官と見せかけて、
実は全身サイボーグの、シビュラの猟犬だったりしちゃってる転生ネタ。


【蛇足設定】
前世死因の原因は友人と恋人関係と間違えられた事による逆恨みに巻き込まれた事による。
友人も犯人も自分も、その事件で死亡している。

その記憶を持ち越したまま転生したので、生まれた時からリーサル対象の潜在犯認定。
両親はその場に駆けつけた執行官から我が子を庇って死亡。
隔離された時は犯罪係数が999のカンストを起こしていた。

本来なら即排除だが、この異例の事態にシビュラシステムはこれもある一種の免罪体質だとして奈留を保護。と言う名の監禁。
人間の脳の成長第一段階が終わるとされる12歳の時に改造され、過酷なリハビリ・訓練の後シビュラを守護する抑止力として執行官に紛れ込む。


空のサイボーグ内部にある電子脳に意識を宿らせ、身体を交換しながら生かされている。
(他の執行官にばれないよう、ドミネーターで観測される犯罪計数は本来よりかなり低く反応するようセット。)
つまり「私の代わりは沢山いるから」状態。
生身の本体はシビュラシステムの脳が沢山ある部屋の付近で眠っている。

戦闘は換えの効くサイボーグという身体を生かした特攻スタイル。
人体の仕組みでは不可能な動きすらも可能としている。
(手足がもげても気にしない、関節外す、高層ビルから飛び降りるetc)
銃タイプのドミネーターよりも、スタンガン型の警棒の方が得意。
痛覚は遮断していないが、既に痛みに慣れすぎて気にしていない。
その他諸々も抑止力として酷使されてきた10年間で精神が消耗しており、一系に入る頃には考える事すらも放棄していた状態だった。

考える事を放棄しているが故、狡噛や征陸みたいに頭を使って相手を追い詰めたり犯人に検討をつけるのではなく、本能だけで相手を見つけ、狩っていく。
刑事というよりは兵士。又は野放しの獣。
加減なく敵を狩るその姿を見ただけでサイコハザードを起こす人が続出する事を思えば、犯罪係数がカンストするのも頷ける。


誕生日は2084年12月29日。
実年齢は27歳で狡噛・宜野座と同い年。


つまり
0歳  希有な存在としてシビュラに監禁。 

12歳 改造手術。2年間の過酷な訓練を課される。

14歳 名前と背景を偽りながら執行官へ配属。
    免罪体質を確保したり、裏切り者や真実を知ったものを狩る。

24歳 宜野座達のチームへ配属。年齢は16歳と偽っているが、それ以外は本体と同じ。

27歳 原作スタート。偽年齢では朱の一つ下の19歳。


・・・という流れ。
首には黒いチョーカーが着いており、反逆の意思があると爆発するようになっている。


またもや性別について一切考えてない・・・。
男子ならひょろ長のっぽ。原作惨劇回避の代わりに崩壊・死亡。
女子なら茜以上弥生以下。原作通りに進む代わりにシビュラ退職。
どっちの性別にしても唐之杜に狙われるのは変わらない(笑)