噛み付いた指先


口内で蠢くその指に、跡が残る程強く歯を立てて噛み付いた。

「痛っ…。」

イーノックは痛みに顔をしかめると、何をするんだとばかりに睨んでくる。
お互いに、邪魔な衣類は全て取り去っており、誰も来ない部屋の空気はただただ甘く湿って熟れたような香りを撒き散らしていた。
戯れにしては少しばかり強いそれはやはり痛かったらしく、お返しとばかりに首筋に思い切り噛み付かれた。自分では見えないが、これはきっと真っ赤な跡が残っていることだろう。

首筋は痛むが、彼が私にくれたものだと思えば全て愛おしい。
声を出して笑うと、イーノックも表情を微笑みに変えて先程噛み付いた場所を犬のように舐めた。

「もっと、もっと私を求めてくれイーノック。」
「これ以上に求めろだなんて。一体ルシフェルは俺をどうさせたいんだ?」
身体を這う手に熱が籠もり、動きが大胆になってくる。

「だって、私ばかりこうして求めているじゃないか。」
始まってみれば彼も確かに溢れる程の愛をこの身に注いでくれる。
が、それを請うのは大抵は私の方からだ。

贅沢な望みだと言うのは解っていたが、もっと彼に求められたい。ゲレンデが溶ける程恋したい。
どうすればイーノックが私に夢中になってくれるだろうかと、まるで周りが見えない子供の我儘のように言って擦り寄った。絡む肌が熱い。

イーノックはそれに対して幸せそうに微笑むと「俺は言葉にするのは苦手だから」とその場を濁して私を抱く事に集中し始めた。

全てを暴く淫らな手付きに意識が遠退く。

こんなのでは誤魔化されないぞ。

ああ、…でも…


気持ち良いから、何でも良いか。