万華鏡


「綺麗だろう?」

そう言いながら彼に渡したのは、未来から持ち帰った万華鏡。
見る度に大きく、小さく鮮やかに変わる光の色がまるで人間のようで、私はそれが好きだった。

イーノックも気に入ってくれると嬉しいのだが、と少しドキドキとしながら渡す。使い方を説明すると彼は直ぐにそれに夢中になり、まるで幼子のような笑顔でその小さな筒を覗き込んでいた。


それは、まだイーノックがイーノックだった時の思い出。


メタトロンとなった彼の腕の中、シーツ以外はお互いに何も纏っておらず、素肌同士を密着させて冷めない熱を分け合っていた。

彼の手の中には、いつか渡した万華鏡。

「まだ、持っていたのか。」
「ルシフェルのくれたプレゼントだからな。当然だ。」
自信満々に笑って頬に口付けられる。情事の後の優しいキスは、何度経験しても少しだけ照れ臭い。

「凄いものだ。たった一つの筒なのに、こんなにも様々な景色を見せてくれる。一度出来た模様は二度と見えないから、一時一時を大切にしようと思えるよ。」
愛しそうに、慈しむように、そう言う姿は人であった時のそれと同じだ。


彼には72通りの名前があるが、その全ては彼であり、そうだつまり何も変わらない。