隙間を埋めてみたくて


普段は閉まっている翼を広げ、文字通り羽を伸ばした状態で草の上に寝転がった。
鼻先に触れる若葉の薫りが、頭のてっぺんから足の先まですうっと行き届いて心地よい。

天使が体調を悪くするなんて話は聞いたことが無いのだが、たまにはこうして羽や身体を動かさないと、何となく動きが鈍くなる気がする。
人間で言うところの『肩が凝る』と言う奴だろうか。

暫くそのままばさばさとはばたかせていると、覚えのある足音と共に頭上に影がさした。

「イーノックか。」
「起きていたのか?よく解ったな。」

うつ伏せになっている所為で私からはイーノックの姿は見えないし、彼からも私の顔は見えない。
多分コイツは「天使は何でも解るんだな」程度にしか思っていないのだろうが、お前だから解るんだといつか言ってやりたいものだ。

顔を上げてイーノックを見ると、いつもの太陽のような微笑みと目が合う。
「羽音が聞こえたから気になって。美しい羽だな。」

慈しむような視線に胸が高鳴った。

「お前にそう言って貰えると嬉しいよ。…触ってみるか?」
起き上がってそう誘いかける。イーノックは目を輝かせながら「構わないのか」などと言っているが、既にその手は背中へと伸びていた。

「凄く気持ちが良いな。それに暖かい。」
恐る恐る触れてきた手は、片手から両手になり動きも徐々に大胆になってくる。仕舞いには両腕で抱き締め顔を埋める始末だ。

本当なら翼ではなく私自身に同じ事をして欲しいのだが…まぁ良い、今はこれで我慢してやろう。
いつかこの僅かな隙間を埋めて、直接お前に抱かれる日を望みながら。