飲酒


ある夜ルシフェルの部屋に訪れると、部屋に入るなり謎のコップを渡された。中に入っているのは…水?

「これは?」
「未来のぶどう酒のようなものだ。口に合うといいんだが。」

この透明の液体はどうやら水ではないらしい。確かに鼻を近付けてみると嗅いだ事の無い匂いが漂っている。ルシフェルの手にあるのも恐らく同じものなのだろう、取り敢えず飲めるものらしい。

「これがぶどう酒…。」
「ぶどうの代わりに麦から出来ているんだ。他にも芋やコメと言う植物から作られているのもあってな。あぁ、一気に飲むんじゃないぞ割っていないからな…って人の話を聞け。」

はて、割るとは何なのだろうか?しかし不思議な飲み物だ。手に持っている時にはひんやりと冷たかったのに、喉を通ると途端に火が点いたように熱くなる。
コップの中身を一気に呷ると、どこか伺うような表情でルシフェルが尋ねてきた。

「…大丈夫、なのか?」
「?大丈夫だ、問題ない。飲めるものなんだろう?」
自分が渡してきた癖に大丈夫かとはどういう事だ。

「それにしたって、普通初めて口にするものは少量ずつ試すだろう。まぁ平気なら構わない。」
そう言って自分もコップに口をつけ、中身を飲む。濡れた唇が、何だか、凄く……

「イーノック?」

ルシフェルの肩を掴んでからは、記憶が無い。


***


目が覚めるとそこはルシフェルのベッドの上で、自分はいつ眠ったんだろうかと首を傾げながら起き上がる。すると隣に白い繭のようなものがある事に気が付いた。
白い翼が何重にも折り重なっているこれは、まさか。

「ルシフェル?」

恐る恐る声を掛けると、微かにその繭が動くのが解った。どうやら当たりのようだ。
「どうかしたのか?大丈夫か?」

俺が寝ている間に何があったのだろう。怪我でもしてはいないかと、そっと翼に触れる。

「……か。」
「え?」

「もう酔いは覚めたのか。」
不機嫌そうにそういって、翼が広がり中のルシフェルが姿を現した。

俺は絶句した。

一体何をしたと言うんだ。ルシフェルの身体の至るところに鬱血と歯形が赤く跡を残し、髪は乱れて下半身には白いものが乾いてこびりついている。周りよく見ればシーツもかなり濡れているような…。

「もうお前はあれを飲むな。」
「わかった。」

反省はしている。が、凄く勿体ない。俺の記憶よどうか今すぐに帰ってきてくれと祈りながら、ルシフェルの機嫌をどうやって取ろうかと冷や汗を流した。