イーノックはよく髪の毛を掻き上げる。
長い金髪が舞うのは美しいと思ったが、戦いの時には邪魔なんだろう。切ろうと考えているのか、髪を掴んでじっとそれを見つめていた事もあった。

今日もまた、髪を掻き上げたかと思うと流れたそれを一房見つめる。

「切るのか?」
私の発言で我に返ったらしいイーノックは、「どうしてだ?」と逆に質問を返してきた。
傍に寄り、額にかかる髪を払い除ける。

「よくこうしているからな、邪魔なのかと思って。」
頬を撫でると、ああ、と笑って今度は彼の手が私の髪へと伸びてきた。

「貴方の癖が移ってしまったようだ。」

耳が熱くなる。

そうだ、私も、よくやっている。後ろに撫で付けている髪を確認するように、何も考えず。

「貴方の事ばかり見ていたからな。」

もう良いそれ以上言うな止めてくれ。不意討ちの言葉が恥ずかしくて嬉しくて、どうにかなりそうだ。

イーノックはそんな私の心を知ってか知らずか、額に口付け優しく微笑む。
今度から、掻き上げる髪をまともに見える気がしない。