無防備


すやすやと眠るその表情は、まるで幼子。
私が隣に座るのも気付かず…いや、私だからなのだと思えば気分が良い。とにかく、ぐっすりと眠りこけている。

机の上には本と書類が山のように積み上げられ、危ういバランスを保ってそこに存在していた。恐らくはずっとかかりきりで録に眠っていなかったのだろう。
柔らかなベッドに身を委ねたイーノックは、それはそれは幸せそうだ。

起こすのは忍びないが、構って貰えないのは私がつまらない。さてどうするかと考えていると。伸びた手が服の端を掴んだ。

「イーノック?」

目が覚めたのかと声を掛ける。が、返事は無い。どうやら寝ながらの無意識の行動だったようだ。
流れる髪の毛を梳いてから、彼の腕の中に潜り込む。するとすぐに優しく包むように力が込もった。
天使には無い暖かな脈動に、ゆっくりと、しかし確実に睡魔が近付いてくる。

「おやすみ…イーノック。」


目を覚ましたイーノックが、自分の腕の中で無防備に眠る天使を見て体温を上げるのは、もう暫くしてからのこと。