ひとつ、またひとつ


指先が軽く触れると、乾いた空気が静電気を生んで双方の手に刺激を与えた。

「…っ。」
「!!」

不意討ちの痛みにお互い声にならない声を上げ、顔を見合わせると歪んだそれを微笑みに戻す。
もう一度、どちらともなく恐る恐る手を伸ばした。もう大丈夫のようだ。

「前にも、こんな事があったな。」
イーノックの唇からぽろりと零された呟きに、ルシフェルは過去を思い出す。
当時はまたこんな関係になっておらず、流れた電流に怒られたような気がして気まずくなりそのまま手を離したのだった。
今度は決して放さないと、指を絡めて身体を寄せ合う。相手の心まで暖められるように願いながら。


何でもないような事が、ひとつずつ思い出となって増えていく。

心地よさに、二人は同時に瞳を閉じた。