やがて重なりあう


時間を戻すというのは、本のページを捲る事に似ている。
神と言う名の偉大な作家が描いた物語の中を、始まりから終わりへと録に中身も見ずに行き来する行為は、中々どうしてつまらない。
膨大な情報の全てを飲み込むのは不可能で、目前を流れては消える様子を、頭に、心に刻む事無く日々を過ごす。
心の伴わない鑑賞というものはひたすら退屈なもので、気が付けば、私はどんなものを見ても聞いても、喜びや怒りというものを感じなくなっていた。

それを、お前は。

いともあっさりと温度を与えられた魂は、歓喜に震えて涙を流す。みるみると色付いていった世界は、お前は見ているものだと同じだと思ってもいいのだろうか?

今までのは壮大な前書きに過ぎない。私とお前の居場所が重なるその時こそが、本当の物語の始まり。

愛しているよ。イーノック。