雨宿り
お気に入りの傘を壊してしまった。
普段あれだけ饒舌なルシフェルは、先刻から一言も言葉を発しない。それが嫌味を言われたり怒鳴られたりするよりも余程堪えて、ついつい背を丸くする。
今、俺達が居るのは大きな木の下。ぴたりと合わさった背中は冷たく、抱き締めて温めたい衝動に駆られたが、今の状況のそもそもの原因が自分であるだけに、一歩が踏み出せずに居た。
そんな迷いの中。
「あ。」
声と共に熱が離れる背中。
「え?」
ばしゃりと音がして、足元の水が跳ねる。思わず振り返ると、ルシフェルは気まずそうに視線を反らした。
どうやら不安定だった足元の位置を落ち着かせようとして、逆に水溜まりに填まったらしい。
「大丈夫か…?もっとこっちに…。」
「あ、ああ…ちょっと待て靴に水が入った。」
そう言うと俺の肩に捕まりながら靴を脱ぐ。確かに水が入ったままだと気持ちが悪いからな。
「…ん?」
両手に靴を持ち、パンパンと音を立てて靴を叩いている様子を見ていると、ある事に気が付いた。
「どうした?」
「ルシフェル、ちょっとそこに立ってくれ。」
「…?まぁ待て今靴を「そのまま。」
そこまで言うと、彼はしまったと言わんばかりの表情で俺を見る。やっぱり見間違いではないようだ。
「…ルシフェル、背、縮んだか?」
普段は自分のものより少し上にある目線が、今では殆ど同じ高さにある。どういうことだ?
ルシフェルは居心地悪そうに視線を彷徨わせると、苦し気に声を出した。
「…気のせいたろう。立っている場所の所為だ。」
立っている場所の高さは同じくらいだろう。とすると考えられるのはこれか?
「あ、コラ人の話を聞け。」
ルシフェルの手にあった靴を奪い、踵の厚みを調べてみる。一見、そこまでの厚みがあるようには見えない、が、中に指を入れて踵との実際の距離を測ってみると、意外と厚みがある事が判明した。
「…これも未来の技術なのか?」
「……未来にも悩める子羊は大勢居るからな。」
成る程、今も未来も男と言う生き物が気にする事は大差無いんだな。その気持ちは痛い程解る。
だがそれとこれとは話が別だ。
「これは没収だ。」
もう片方の靴も奪って、遠くに投げ捨てた。
「俺が気にしてた事、知っていたんだろう。」
抱き締めながら言った言葉は、子供のように不貞腐れていたと思う。
「…お前は私のものを壊してばかりだな。」
それに対する返答を紡ぐ声は怒ってはおらず、同じ高さになった髪を優しく撫でてくれた。
End
PVと設定画でルシたんの身長違うよね。