吸血鬼エロ本シャッフルの能力により皆のDVDはタイトルが消された状態でシャッフルされ、ギルドの机にはまるで新品のような姿のDVDが山と積まれていた。
お気に入りの一枚から昨日買ったばかりでまだパッケージしか見ていないものまで全てがぐちゃぐちゃになっており、新横浜は阿鼻叫喚の嵐となった。
しかし退治人だけでなく吸血鬼連中からも怒りの腹パンを食らわされた迷惑吸血鬼はシャッフルする能力はあってもそれを元に戻す能力は無かったらしい。それを知りもう一度拳を振り上げたのは決してロナルドだけではなかったことを追記しておく。

さて、吸血鬼によるクソ被害があればそれをどうにかするのも退治人の勤め。いや嘘だ。各人、自分の自分による自分のための都合により、DVDを救出する作業が開始された。第二回エロDVD大上映会の幕開けである。
一悶着はあるかもしれないがあっさりと終わるだろうと思われていたその仕分けは、しかし困難を極めた。
何度も見た気に入りのものなどは冒頭の一分で持ち主が気付き再生を止めようとしたのだが、周囲が面白がってそれを邪魔するので一向に作業が進まなかったのだ。
もしも此処に吸血鬼君がエッチなことを考えると流れ星を降らせるおじさんが居たならば新横浜は、いや地球は滅んでいただろう。非常に危ないところであった。

エロとは十人十色、魚の産卵シーンを集めた学術資料のようなものは恐らくキンデメのものだろうからとロナルドに渡り、ただひたすら灯台が光っているだけの動画は形状が似てるからメビヤツのじゃないかなあと言う理由でこれもロナルドに渡った。エロとは一体何なのであろうか。
あとは見ているだけで痒くなりそうな、山火事と見紛うばかりのスギ花粉の映像。これに関してはゼンラニウムのものなのかゴビーのものなのか意見が別れた末に何故だかこれもロナルドの下へ預けられる事となった。その次に出てきたマッチョが三人でローション相撲をしているものが上映された時は、お察しの通りドラルクがショックで死に、更にシーニャかキッスのものだとばかり思っていたところ持ち主はまさかのコユキであった事実が判明してマスターも死んだ。
エロとは何かと悟りを開きそうになりながらそんなものばかり十本近く見続けた後、ようやく巨乳の美少女が出てきた時には逆に安堵の溜息すら出てきた程である。

それは実際に女優が演じているタイプのものではなくアニメ作品であった。

夜道を歩いていたヒロインが突然男に拉致されて謎の廃屋で無理矢理縛られた時には数人が顔を顰めたが、まぁ所詮はアニメであるし、こういった人道に反するような内容も一定の需要があることは認めようと特に何を言う事も無かった。
しかし、その後の展開は予想していたものとは少々毛色が違った。
男は抵抗出来ない少女の顔や腹を何度も殴りつけると、血の滴る髪をひっ掴み壁に頭を打ち付けその美しい顔に醜い傷跡を残していく。何に使うのか考えたくもない形状の鉄の器具が出てきたところで、リモコンを握っていたヴァモネが電源を落とした。
「えぐい…。」
青い顔をしたショットが思わず呟いたのに、幾人かは同意して静かに頷く。自分の性癖を差し置いて他人の性癖にとやかく言うつもりは無かったし、今回のDVDは架空の創作物なのだから実際に被害者は居ない。それでも三十分近く罪のない少女がひたすら拷問されるのを見続けるのは精神的にキツかった。

一体これは誰のものなんだと集まった面々は視線を泳がせて犯人探しを始めかけたが、はっとした表情で叫ぶカンタロウに視線が集まったことにより醜い罪の擦り合いは回避された。
「きっとこれは吸血鬼ナギリのものであります!」
善良な人々を切り裂きまくっているかの極悪吸血鬼ならば、きっとこんな性癖もあるだろう。その意見に他のメンバーも賛同し、なんとしてもそんな凶悪犯は捕まえなければと決意を固めた。
彼の友人らしい辻田と言う吸血鬼だけは顔を真っ青にさせて小さく首を横に振っていたが、ここに連れてこられて以降ずっと黙っているような無口でシャイな男だ。きっと想像だけでも辛いのだろうと誰もその件に触れることは無かった。


いつもならばギルドからの帰り道では、妙な噂話だとか下らない言い争いだとか、何かしら言葉を交わしながら歩いているのだが、今日はどちらも無言のまま帰路に着いた。
ロナルドは普段の五歳児のような態度とは打って変わり、何を考えているのか分からない無表情で、ドラルクは黙ったまま恐る恐るその冷たい美貌から感情を読み取ろうと試みる。
よく見れば、ドラルクの顔色はいつもに増して青白い。

見覚えがあったのだ。散々にいたぶられていた二次元の少女に。
クローゼットの中に隠すようにして置かれていたDVDは殆どが実写ものだったが、二、三本だけアニメ作品があった。ドラルクもうなじが好きではあるがそれ以外のものだって見るし、一見しただけではアニメとは言えいつもの巨乳だったので特に深追いして内容を確認する事もなく放置していたのだ。
後日改めてクローゼットの中を確認する勇気は無いが、このまま有耶無耶にするのもそれはそれで恐ろしかった。

「ねぇ、ロナルドくん。」
意を決して名前を呼ぶと、ロナルドは何を問われるのか理解していたらしく、小さく溜息をつくとあっさりと口を割った。
「だって、お前がすぐ死ぬから。」
「は?」
「俺だって女の子がひどい事されてるのに興奮なんかしねーよ。でもお前何したってすぐ死ぬじゃん。」
拗ねたような口調だが、態度自体は普段のものと何も変わりない。言い訳にしたってもっと他に何かあっただろうと詰ってやりたくなったが、彼にとっては本当にそれが全ての言い訳であり、理由なのだろう。

狼狽えている間にも自身の身体は壁際に追い詰められており、この状態では例え死んで塵になったとしても逃げ場は無い。
真正面からロナルドの顔を見て漸く、その青い瞳の奥に昏い炎が宿っているのに気がついた。

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