「飲み直さねぇ?」
俺の部屋で、と続いた言葉ひ数ヶ月前まではよく耳にしていた誘い文句だった。
「え、でもドラルクは…。」
そう言ってしまってから、いやこれはそう言う意味ではなく本当にただの飲み直しの誘いなのではと気付いて余計な早とちりをしてしまったと顔を赤らめた。しかし、誘いをかけたロナルドはにっかりと笑うと鉄の鎧に包まれた俺の腕を取って引っ張ると機嫌良さそうに道を先導した。
「何か実家の方に呼ばれたってんでジョンと出かけてる。明日の夜まで帰ってこねーってさ。」
悪戯っ子のような表情で告げた彼の顔も、まるでその衣装のように真っ赤に染まっていた。

サテツの家は大体弟が居るから、そう言った行為をするのは専らロナルドの家だった。
だが、ドラルクが彼の城に居着いてからと言うもの彼本人だけではなくその使い魔だったりキンデメを始めとする別の吸血鬼だったりという者達が事務所に居着き始め、セックスどころか落ち着いて二人きりになる事すらままならなぬ有様なのだ。

「ヒナイチの巣穴も塞いだし、メビヤツとかキンデメは流石に寝室まで入って来れねーからな。」
それならば、アルコールでも持ち込んで篭ってしまえば恐らくバレはしないだろう。いっそ二人でAVの鑑賞会でもしていたと言う事にすれば…抜き合うくらいは、セーフ、だよな?

「全く、ドラ公がとっとと出て行ってくれりゃあこんな気ぃ使わずに済んだのに。」
ぶつぶつと文句を言うロナルドも、何だかんだ家事の一切を引き受けてくれているドラルクに多少の恩義は感じているのだ。しかしこればっかりは最後の砦と言うべきか、いやこれさえ無ければまぁ譲歩は出来たのだがと微妙な心持ちでそのままずるずると今に至っている。

「でも、俺は良かったと思ってるよ。」
「ん?何が?」
小さく笑ったサテツの言葉に、ロナルドはその透き通った青い目を丸くして首を傾げた。
「家で待ってくれる相手が居るって事がさ。俺には弟が居るけど、ロナルドは一人だったから…。」
そう喋りながら、流石に余計な口出しをし過ぎたかと徐々に語尾は小さくなり視線は足元へとずらされる。



「…なら、お前が待っててくれりゃ良いじゃん。」
お互いハンターなどと言う職に就いている以上、それは夢物語と言うかただの妄想でしかないのは言い出したロナルドだって理解はしていたが。

「……っ!」
「ホラ、早く帰ろうぜ。」

腕は繋がれたまま、どちらとも無く事務所へと向かって駆け出した。

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