「ところで、お前はサリオンの皇帝と何かあったのか?」
ソウエイが不思議そうに首を傾げて尋ねたのに、他の面々もああと声を漏らしてリムルの使い終わった紅茶のカップを片付けていた黒い姿を注視した。
「暴走ってんなら他にも居るもんなぁ。」
あえて誰の事とは言わないが、神妙な顔をしてうんうんと頷いているベニマルは事あるごとにシオンの手料理と言う名のリーサルウェポンの犠牲になっている。
伏せられた何某の件はさておき、名を挙げられたディアブロに関して言えば、幹部の中では比較的新参であるにも関わらずその忠誠心の高さは皆も認める所である。確かにその溢れんばかりのやる気が空回りして多少やり過ぎる事もあるかもしれないが、しかしそれはあくまでも可能性が高いと言うだけで、あんな風に大真面目に忠告を受ける謂れは無いように思えた。
リムルも会議が終わった後に「ディアブロにばっかり言わなくっても良いじゃんなぁ。」と慰めて(?)いたので、他のメンバーが知らない間に何かしでかしたという事でもないだろう。

「お会いしたのはあれが初めてですよ。」
そもそも悪魔は呼び出されなければ地上に現れないため、長年生きているとは言っても直接顔を合わせた人間を忘れるような事はまずあり得ない。
「召喚した本人じゃなくても、前地上に来た時に遠くから見ていたとか。」
「無関係の者を召喚の場に呼ぶ事は考えられませんし、隠れて見ていたとしても気付きます。」

そう答えたディアブロに、では一体何故と彼らの中でますます謎が深まる。
「リムル様御自身に釘を刺すと言うのならともかく、ディアブロさんの暴走についてだけと言うのが妙な話ですよねぇ。」
この場唯一の人間であるミョルマイルがぽつりとつぶやいた言葉に、一同は何も言わず揃って肯首した。

そうなのだ。
そもそもの決定権は魔王であるリムルにあり、彼が一声命じればディアブロだけでなく穏健派であるゲルドやガビルも敵対者を滅ぼすべく尽力するのは明白である。その上この国には過去に実際やらかした…いや、名高き暴風竜として恐れられているヴェルドラもリムルの盟友として待機しており、何よりも危惧するべきは人間と共存するつもりだと言うリムル自身の心変わりの筈だ。
強者であるとは言え一介の部下でしかない彼を何故わざわざ指名してまでと、テンペストの面々としてはそこが理解出来ないのだ。

「ディアブロじゃないとすれば、他の悪魔と何かあったのか?」
「なるほど、それで悪魔と言う種族自体に危機感を持っていると。」
ソウエイの立てた仮説にベニマルが同意の声を上げると、あくまでも他人事であると言う姿勢を崩さずに当のディアブロが不本意そうに溜息を吐いた。
「私がリムル様の意を違える筈などありませんのに。」
幾人かは心中でいやそれはどうだろうかと思わないでもなかったが、まあ少なくとも態と不興を買うような真似は絶対にしないだろうと一応の納得をしてみせた。

幾ら力を得たとは言えそもそもが下級のゴブリンやオーガでしかなかった彼らが、伝承レベルの存在である原初の悪魔の事など知る筈も無い。

何よりも、結局はリムルが一番強いのだから仮にこの悪魔が暴れたとしても取るに足らない事だと判断して。

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