Eye"s"


全身を鋼鉄で造られた身体の中にも、ひとつだけ柔らかい場所があるのをサイタマは知っている。

「ん、っ、ふ、ん…。」
ぴちゃぴちゃと響く水音と、鼻から抜けるような甘い声。ぬめる舌はそこだけがまるで独立した生き物のように蠢いて熱い。
「ジェノ、ス…っ。」
きつく先端を吸われて思わず掴んだ頬には適度な弾力があり、さらさらと触れる髪の毛の先も、多少堅いとは言え染色の一言で充分説明がつく程のものだ。
剥き出しの掌や首筋、どう見ても人になど見えない彼が、せめて表情だけでも人間らしくあれるようにとの、博士の親心なのだろう。

一本も睫毛の生えていない目蓋に親指を這わせた。
潤いを必要としないレンズは、この指が直接触れても痛みや不快を感じることは無いそうだ。
しゃぶらせていた性器を口内から引き抜いて、黒い瞳に指先を宛てた。
目頭と目尻の両方から、ゆっくりと指を差し込む。間違っても傷をつけないよう、慎重に。

「先生?」
ジェノスは不思議そうに俺の名を呼びながらも、唇から滴る液体を拭いもせずにじっと待っていた。

やがて二本の侵入者が眼窩の奥にまでずっぷりと辿り着いてしまうと、サイタマは硬い球体の先にあるコードを手繰り寄せて、緩やかに機械の目玉を取り出した。
「痛くはねぇんだよな?」
「?はい。」
「こっちもまだ見えてんのか?」
「コードを抜かない限りは……先生?」

不思議そうな表情をしたジェノスの、ぽっかりと空いたその空洞に、サイタマは先程から興奮ではち切れそうになっている己の分身を一息に突き立てた。
「ひっ!」
小さな叫びと共に、性器を温かく包み込む内壁が柔らかくうねる。まさかそんな風に動くとは思っておらず、驚いて僅かに腰が引けたが、眼球レンズを動かす為の人工筋肉かと気付いてからはそのぬるい快感をじっくりと味わった。

「っ……う……。」
「っ、はぁ…痛いか?」
痛覚は無いらしいから大丈夫だろうと踏んでの暴挙であったが、抜き差しをするとその度にジェノスの身体が跳ねるので、心配になって動きを止める。
残った側の目蓋はきゅっと閉じられていたが、問われたことに答えようとしたらしく、ゆっくりと、光の暴力を受け入れるようにアイカメラをサイタマの顔の下へ晒した。
「いえ…痛くは、無いのですが……変な、感じが…。…あ。」

外れた眼球に気付いたらしい。そうだ、これがまだ生きているとなると、ジェノスの視界は俺に襲われているのと、それを横目に見ると言う部外者のような視点の二ヶ所からこの茶葉を眺めなければならない。

全く酷い光景だ。
本人の身体はボロボロで、目玉を抉られてオナホールにさせられている。
だが何よりも酷いのは、ジェノスがその現状を実に嬉しそうに甘受しているという事実だろう。眼窩から滴り落ちる、俺のザーメンと機械油の混ざったものを、じつにうまそうに飲んでいる姿など堪らなく可愛いではないか。
気づけば何も無い筈の下半身は腰を突き出すように震えており、床と機械のぶつかる音が狭い部屋に大きく響いていた。

「は、…っ、う、う、…あ、せん、せ、もっと…。」
「っ、ああ、ジェノス…ジェノスっ!」
慌てて自分も腰の動きを再開させると、挿入したまま、そのまま頭の中へと白濁をぶちまけた。
唯一人間の名残を残していると言うその場所を汚すと言うのは非常に背徳感があったが、同時にこの遊びによってジェノスの身体に何か致命的な傷を残してしまったらどうしようという思いも抱いている。

ずるりと音を立てて肉棒を引き抜くと、残った方の瞳と目があった。ジェノスも笑っている。



もしこの戯れが、取り返しのつかない事態になっても。
ああ、でも今だけは。


どちらともなく、幸せそうに微笑んだ。



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