それが「まこと」なのです

心の代弁者であると自称する彼の言葉に、自分は殆ど逆らった事がない。
訪ねられた問いに、投げつけられた言葉に。黙ったままでいると、他人は返事をしない俺に痺れを切らして、代わりにいつも隣で微笑んでいる真琴を捕まえて応えを急かすのが気付けば日常になっていた。

自分がおかしいのだと理解したのは案外早い時期からで、周りに上手く馴染めない違和感も、同級生の言っている言葉や感情が心に響かないという疎外感も、年を追う毎に俺の中にまるで下水に溜まる澱のようにじわりじわりと蓄積されていった。
二十歳過ぎればただの人、とばあちゃんは言ったが、たった十数年しか生きていない俺にとって成人なんて言うのは遥か遠い未来の出来事でしかない。もし願いが叶うのならば、今この瞬間にでも『一般人』の称号を与えて欲しいくらいだ。

ただ、きみだけが。



「遥はねー『雨がここに溜まって泳げるくらい大きな水溜まりになれば良いのに』って思ってるよ。」



真琴は『俺がどう思っているか』と言う質問に答える時、躊躇ったことが無い。
数秒間だけ伺うように此方を見つめた後に紡がれる言葉を俺が否定したことは無くて、否定する、意味も無くて。
誰よりも知っている。だって当然だろう、真琴は俺の思考に詳しいのではなくて、それに名前を付けているのだから。
自分が何を考えているのか、何をしたいのか、俺ですら分からない俺の考えを、人の世界へと運んでくれる。

早く、ただの人になりたかった。

君がまことを告げてくれるから、俺はただの人になれる。



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