予定書いてよ


日差しの気持ち良いある日の昼下がり、うとうとと日光浴を楽しんでいたルシフェルは、耳元で聞こえる草を掻き分けるような音で目を開いた。彼のお気に入りのその場所は、背の高い草が周りを囲うように生い茂り、そう簡単には人目につかない。
そんなこの場所を知っているのは、神か、あるいは…

「やっぱり此処だったか。」

太陽が金色の髪に反射し、ルシフェルはその眩しさに思わず目を細くする。

「此処は落ち着くからな。」

普段よりも少しばかり甘い声でそう言うと、促すように自分の隣の芝生を叩く。イーノックも最初からそのつもりだったらしく、誘われるままにすぐ腰を下ろして寝そべった。

「気持ちが良いな。」

「ああ。」

優しくそよぐ風に、今にも夢の世界に旅立ってしまいそうなイーノックの方に身体ごと向くと、ルシフェルは髪を梳きながら問い掛ける。

「仕事の方はどうだ?」
「大丈夫だ、問題ない。」

しかし、にこりと笑って即答した後に、少しだけ表情を曇らせながら一言だけ零す。

「でも、ルシフェルと会う時間が少ないのは、悲しいな。」

髪に触れる手を取り、白い指先にそっと口付ける。留守を守る子犬のような、淋しさと責務で揺れるその表情に、ルシフェルは自分の胸が高鳴るのを感じた。

どこから取り出したのか、ルシフェルの手にはいつの間にか一冊の薄い冊子が握られている。

「それは?」
「これはスケジュール帳と言って、未来の人間が予定を記す為に使っているものだ。」

そこで一度言葉を区切ると、物珍しそうに眺めていたイーノックに向かって、にやりとしながらその手帳を差し出した。

「これをあげよう。これに、お前の思う最良の未来を記してくれ。」

イーノックは渡されるままにそれを受け取った後、少し考えてから書記官らしい美しい文字でページいっぱいにこう書いた


“ずっとルシフェルと共に”


「上出来だ。」

誰に見咎められるでないその小さな幸せが、現実のものになりますようにと二人で願いながら。