ノーマン・ベイツ


天使は夢など見ないのに。

思わずそうぼやきたくもなるさ、まるでお前のが伝染ってしまったかのように、仮の身体の目蓋を閉じて横たわると様々な情景が浮かんで来る。
過去の記憶でも未来の出来事でも無いそれらの映像は、時にはどこまでも優しく幸せで、また時には吐き気がする程残酷なものだった。
「夢とは、無意識の望みが出るものだと聞いた。」

天使は夢を見ない。なのに私が夢など見る理由は、きっと。

「嫌な夢や、恐ろしい夢を見た時人間はどうするんだ。」
柄にもなく不安になり、責めるような口調でイーノックにそう訴える。だってお前の所為だ、私が夢を見るのも、不安を覚えるのも、あんな悪夢に悩まされるのも全部。
けれどコイツはそんな私の苦しみなど髪の毛一筋ほども理解せず、逆に微笑みまで見せて猫でもあしらうように私を撫でた。
「貴方には怖いものなんて無いだろう。」
ああそうだとも、そんなものは今まで無かったし、考えもしなかった。けれどもう見てしまったんだ、あの夢を。
「それでも不安なら、私がずっとついていよう。二人なら怖く無いだろう?」
大きな手は未だに頭上でなでなでと動いている。ばか、すき。


もう二度と見るものか。お前が私を置いて、何処か遠くへ行ってしまう夢なんて。