サンフランシスコ


「はい、あーん。」
差し出されたスプーンの上には、見慣れない色をした物体がちょこんと乗せられており、甘い匂いを放っている。一瞬鮮やか過ぎるその色に怯んだものの、ルシフェルがこう言っているのだから食べ物…に間違いは無いのだろう。
意を決して唇を開くと、にっこりと微笑んだルシフェルが直ぐに指を滑らせた。
まるで雪のように冷たいその温度に一瞬肩を跳ねさせる。
そしてじわりと口内に広がった味を確かめ飲み込んで口を開くと、未だ笑顔のままのルシフェルに問いかけた。

「ルシフェル…これは…何の薬だ?」
「ん?」
ベースはミントだろうか。それに加え、言い様の無い薬臭さと苦味に、恐らく飲ませやすいようにであろう甘味。しかし、その調和は言ってしまえば最悪だ。
思わず口元を押さえて視線が泳ぐ。
「何だ、お気に召さなかったか?」
「お気に召すも何も…。」
ぐったりと力の抜けた私を見て、ルシフェルは不思議そうに首を傾げた。
「私は好きなんだがなぁ…ちなみにこれは薬じゃなくて未来の菓子だぞ?」
「菓子!?これが!?」
いやどう考えたって薬臭い。これが菓子?菓子って言うのはもっとこう…と、頭の中で色々な反論が飛び交う。
しかしルシフェルは相変わらずのマイペースで、私やミカエルは好きなんだがなぁと言いながら、旨そうにぱくぱくと食べている。
これが…菓子…ああでもそう言われてみれば、前に貰ったアイスとやらに似ている気がする。そうかアイスだったのか。

「口直しをくれないか…私にこの旨さは解らないようだ…。」
緩く首を振って伺うように赤い瞳を見上げると、みるみる内に白い顔が近付いて、ちゅうっと唇に吸い付かれる。
その舌先は先程と同じアイスの味がしたが、今度はなかなかどうして、離れがたいほど美味だった。