プライドないの?
情事の後の気だるさが好きだ。
背や腹に回された腕も厚い胸板も、私を包み込む全てに言い様の無い安心感を覚える。
人間が母の胎内に居る時というのは、こんな風に心地良いものなのだろうか。
「ん…起きていたのか。」
眠そうに目蓋を擦ってから、抱き締めていた腕を緩める。その事を少し残念に思いながらも、返事をしようとしたのに言葉を発せないほど喉が乾いていた事実に今更気付いた。
上体を起こして枕元にあるコップに手を伸ばす。
「…あ。」
目測を誤った。
ばしゃん、と小さな音が部屋に響き、コップが転がる。幸いにも金属製なので割れはしなかったが、これでは床が水浸しだ。
仕方ない、少し巻き戻すかと指を合わせる。
と、イーノックがその腕を掴んで笑っていた。
「このくらい片付けるさ。」
イーノックは近くにあった布を取ると、躊躇いなくベッドから降り、床にひざまづいて手早く水を拭き取り始めた。
もしかして面倒くさがりだと思われているんじゃないだろうか。違うぞ、断じて面倒だなどと思った訳じゃない。
ただこの心地いい温もりが無くなるのが嫌だっただけだ。それを躊躇い無くベッドから抜け出して。少しは察しろ。
一人で寝転がっているのも詰まらないので、起き上がってからベッドサイドに腰掛ける。すると屈んでいる金髪が、私の足先に近づいた。
不意に、悪戯心が芽生え、足を伸ばして頭を軽く踏む。
「ん?」
イーノックは不思議そうな表情をしてまんまと上を向いたので、それに合わせて頭を踏んでいた足を顔…正確には口元へと持っていった。
さぁどうすると愉快な気持ちになったのは一瞬で、躊躇い無く舌が差し出され、指の股まで丁寧になぶられる。
「…っ、少しは、躊躇とか無いのか。」
舐められた部分から電流のように登ってくるぞくぞくとしたものが予想外に気持ち良くて、悔し紛れにそう言った。
イーノックは私の思考を見通しているのか、にやりと自信満々に笑って言う。
「貴方には全てを預けてあるからな。今更守るプライドなど無いさ。」
嗚呼分かったよ!私の負けだ!!