何の実験かと思った
「ルシフェル!」
その時、その場に居た天使達は一斉に硬直した。
「何のつもりだ?」
ルシフェルも普段のような口調ではあるが、明らかに目が泳いでいる。
その場で唯一戸惑っていない……いや、騒ぎの当事者であるイーノックは、何かを確認するかのようにふむ、とひとりごちて腕の中のルシフェルを見つめていた。
「…もう一度聞くぞ。何のつもりだ?」
イーノックの腕に横抱き、いわゆるお姫様抱っこで抱き上げられたルシフェルは、衆人観衆のこの状況にどんどん居心地を悪くしながらそう尋ねる。
「ああ、突然すまない。さっきの天使を見たら気になってな。」
理由が断片的で未だ飲み込めない。もっと詳しく話せと顎で促すと、記憶を辿るように視線を上げて語り始めた。
「ええとな、さっき俺が泉の近くを通った時、一人の天使が沐浴をしようとしていたんだ。その天使は俺より明らかに細かったんだが、服を脱いだ時にその服から凄い音がしてな。」
成る程、服に重りを付けて鍛えていたのか。私も今までそういった訓練をしている連中を何人か見たことがある。
「で、私もそうじゃないかと気になったわけか。」
コクコクと頷くイーノックに、呆れたように息を吐く。
「私がその方法で鍛えようと思ったら、君が持ち上げられるような重さにはならないぞ。」
出会い頭にいきなり腰と脚を抱えられた先程の行動を思い出し、暗に大天使を舐めるなと含めて軽率な奴めと呟いた。
「はは、それもそうか。…あ、そうだ。食事に行かないか?」
そう言えばそろそろそんな時間か。いいだろうそれには賛成だ。
しかしその前に一つ言っておきたい事がある。
「もう気が済んだだろう下ろせ。」
「ん?平気だぞ重くはない。」
そう言う事を言っているんじゃない!相変わらず人の話を聞かなさ過ぎるだろう。
周りの天使達が言葉を濁し目を逸らしながら立ち去るのが何だか痛い。
それなのに、イーノックが楽しそうだから良いかと思ってしまう私も末期なのだけれど。