近づいたはずが遠くなって


ぷにぷにと柔らかな頬をつついてみたが、一向に起きる気配が無い。
園では昼寝の時間だったが、ルシフェルは朝に飲んだコーヒーが悪かったのか、いつまで経っても眠る事が出来ず、目を閉じるのも退屈になってついつい隣のイーノックの方へと手を伸ばした。
「ん…ぅ。」
小さく声は上げるがそれ以上に何かリアクションが帰ってくる訳では無し。
つまらない、と頬を膨らませてルシフェルはころころと寝返りをうった。

「ルシフェルくん、寝れないの?」
その様子を見ていた保母が、他の子を起こさないように小さな音量で声をかける。
どうしても眠れない子は隣の部屋で本を読む事になっており、その誘いのつもりなのだろう。
眠れないのは事実だし別に本を読みに行っても構わないのだが、しかし何よりもイーノックと一緒に居たいという気持ちが一番強かった。

もう少し此処で居る、と答えようと顔を上げた瞬間。ルシフェルの身体は横からすっと延びてきた手に絡め取られた。
「ん…。」
イーノックはルシフェルを胸に抱き込むと大人が子供をあやす時のように背中をぽんぽんと叩き、穏やかな寝息を耳元で吐き出す。

「ふへへ…私もねるよ。」
そう言ってぎゅうっとイーノックにしがみつき目蓋を閉じると、赤い瞳はとろとろと睡魔に襲われ始めた。