寂しがる


褐色の胸板に抱かれながら、ぱちりぱちりと何度も指を鳴らす。
地上ならばこれだけで、この幸福な時間を幾らでも引き伸ばせると言うのに、残念ながら時間の流れも仕組みも全然違う天界では、その力は使えない。
今までそれで困った事など無かったし、これで充分だと思っていた。今までは。

「ルシフェル?」
寝惚け眼のイーノックが、口の中だけでもごもごと呟いて、抱き締める腕の力を強めた。
今日が終われば明日、明日が終われば明後日、また何度でもこうしてイーノックに抱かれる事が出来るのは解っている。解っているが惜しいんだ、この一分一秒が。
それなのにこいつは私を放って呑気に寝息など立てやがって…ああでもこうして見ると寝顔も可愛いんじゃないかな。
うりうりと額を擦り付けると、同じように目蓋を閉じて吐き出される寝息に耳を傾けた。穏やかな音が続くそれは確かに心地良いが、私を構わなかった罪は重いぞイーノック。

起きたら何をして貰おう、コイツは私のお願いなら一通りは聞いてくれる筈だから、目一杯甘えてやるのも楽しそうだ。