思い出す


メタトロンへと昇天して、一番驚いたのがイーノック時代の自分の死亡回数だ。特にタワーに入ってからの。
時間を巻き戻して貰っているのは知っていたし、何より何度も彼の指を鳴らす音を聞いていたので、その、自分が覚えている指の音の回数がそのまま死亡回数なのかなと思っていた。
ところが実際はどうだ。自分の覚えている軽く十倍はルシフェルの指のお世話になっている。これは本当に申し訳ない。

膝に乗って猫のように甘える彼の髪を撫でると、今にもごろにゃんと可愛い声で鳴いてくれそうな気がした。
沢山面倒をかけた分、これからは自分がルシフェルの為に出来る限りの事をしよう。
…そう言えば、彼に初めて出会った時もそんな事を思ったんだった。この美しい天使の為に、私が出来る事なら何だってしようと。
突然笑いだした私をいぶかしんで、ルシフェルが下から顔を覗き込む。

桜色をした唇は、相変わらず甘かった。