勃つかな?勃たなかった…。



「あっ…神…。」
天界の隅っこ、俗にミカエルの手と呼ばれる土地。滅多に人の来ないこの場所で、神はそっとミカエルの胸元をはだけた。

(いける!これでアークエンジェル全員斬った!!)
そんな事を考えているなどとはおくびにも出さない我等が神は、憐れな犠牲者の頬を撫でると熱を込めた瞳で視線を合わせる。
「ミカエル…。」
しかし、後一歩と言う良い所で、背後からガタンと大きな音が響いてその行為はあっさりと中断してしまった。
邪魔をされた苛立ちも含め、訝しげに思い振り向くと、其処にはわなわなと肩を震わせた人影が一つ。
「神っ!酷い、私との事は遊びだったんですか!?」
「なっ、ウリエル!?」
彼は筋骨隆々の逞しい身体を震わせつつ、目にいっぱい涙を溜めて神を見つめると。
「神の浮気者!!スケベ!!粗チ●ーーー!!!」
体育会系お得意の、腹式呼吸をフルに使用した絶叫を披露しながらまるで陸上選手のような美しいフォームで走り去って行った。
「ウリエル!?浮気者とかスケベはともかく粗●ンってどう言う事!?」
そう叫びながら、前屈みになりながら弱冠情けない格好でウリエルを追い掛けて行く。と、彼は角を曲がった所で偶然出くわしたらしいラファエルに泣き付いていた。しまった、これではラファエルにまで詰られてしまうと思わず固まる。

「神のって小さいの?」
しかし隣でその様子を見ていたアルマロスが、目を丸くして口を挟んだ事でその心配は無くなった。
「そんなワケ無いだろうが。」
どれだけ天然なのか、いやそれよりも問題は其処なのかと軽く小突く。
すると、それを聞いていたラファエルは、目を見開き信じられないといった表情で言った。

「…え、神。もしかして自覚無かったんですか?」






……は?





「ねぇ皆聞いて!!神ってば短小の自覚無かったんだって!!!」
ラファエルがそう叫ぶと(そもそも叫ぶなと神は言いたかった)何処からかわらわらと他の奴等が集まってくる。その沸きっぷりは石油かはたまたアイドルのバックダンサーか。
「本当なのか神!?」
神の手を握り、必死にそう問い詰めてくるのはルシフェル。まるで余命幾ばくかの難病宣告をされたような狼狽ぶりだ。
「いやちょっと待って待って、どう言う事。」
「どういう事もこういう事も無いだろう!?自分は小さいと思ってたのか思ってなかったのか!どっちなんだ!?」
食って掛かって来るルシフェルを見て、冗談にしては笑えないぞと負けじと怒鳴り返す。
「私を誰だと思ってるんだ!?絶対にして崇高なる唯一の神だぞ!?小さいワケがあるか!!」
しかしルシフェルはその返答に「だからじゃないか…。」と、絶望したように小さく呟くと、まるでB級映画のヒロインよろしく、力が抜けたようにへなへなとその場に座り込んでしまった。だからって何だだからって。
「…神、辛いでしょうがよくお聞き下さい。」
今度はガブリエルが神の肩を両手でしっかりと掴み、正面から目を見つめながら言い聞かせる。

「人間の体は、成長と供に大きくなっていくんです。勿論息子も。」
「それは何か。私の銃は生まれたばかりの人間と同じ大きさだと言いたいのか。」
そう答える神の額には、うっすらと青筋が浮かんでいるように見えた。すると今度はサリエルが、未だチャックをちゃんと閉めていないズボンを引っ張り、中を覗きこみながら首を傾げる。
「いや、だってこの大きさはどう見たって生まれたままの姿ですよ?」
「ちゃんと大人サイズに決まってるだろうが!」
いやそれよりもズボンを引っ張るな中を覗くな。と言おうとサリエルの手を払い除けた瞬間、エゼキエルとセムヤザが大声で叫んだ。
「えぇっ!?」
「子供の頃これより小っちゃかったの!?」
そう言っては何度も神の息子を確認する。だからいい加減その手を離せ。
「神にご両親が居ない事をこれ程嬉しいと思った事はありません。」
続いてガブリエルが、目尻に溜まった涙を軽く拭いながら身を震わせた。
「何で其処で親が出て来る。」
「だって、息子の息子が一気に曾々孫位になってるって言うのは流石に…。」
「わけがわからないよ。」
ガブリエルの言葉を一喝すると、続いてアザゼルが出て来る。呼んでませんよアザゼルさんと喉元まで出掛かったが、それを言うと恐らく収拾が付かなくなるだろうなぁと言うのは一応神も理解していた。
「だから神の聖域は息子と言うより曾孫だから、神のご両親にとっては曾々「そう言う事を言ってるのと違うわヴォケ。」
必死に説明しようとするのを遮り、ズボンに群がる大勢の手を退けさせる。そろそろコイツ等纏めて殴っても良いだろうかと物騒な事を考えながら漸くズボンのジッパーは閉まった。

「つまりは驚くほど小さいと言う事だ。まぁ、逆神クラスとでも言えば良いのか…。」
「よし解ったルシフェル犯す。泣かす。」
下級天使から順繰りに食っていた為、真っ先に作ったにも関わらず大天使であるルシフェルはまだ手付かずだ。ぼやぼやしている間にイーノックと恋仲になっていたらしいが、神は神なのでイーノックの言葉を借りるなら大丈夫だ問題無い。
「おいおい冗談は止してくれ。私は毎日毎晩イーノックの太くて大きなので慣らされてるんだぞ。泣く?挿入されたまま寝る自信があるね。」
肩を竦めて鼻先で笑うルシフェルのビッチ宣言に遂に神はぷっつんと来て、ならミカエルの前にお前からだと手を伸ばした。
あわやこんな場所で公開プレイかと周囲の者が身を固くした瞬間、アルマロスが、恐る恐るといった様子で発言して神の怒りは一旦萎えた。
「…おっきした時はまだマシなんじゃあ…?」

良く言ったアルマロス、お前の堕天は不問に処する。
神の気持ちを代弁するならこんな所だろう。しかしアルマロスのそんな優しさは、アークエンジェル逹の手によってあっさりと崩れ落ちた。
「とんでもない!」
「眠れる獅子が起きてるのか寝てるのか解らない。むしろ永眠してる。」
「永眠!?」
ラファエルとウリエルが余計な知識を吹き込む。誰が永眠だと神が口を挟む前に別の声がそれを遮る。
「女の子の初めて膜破れないリアル親指姫だから。」
ガブリエルがぐっと親指を立てて解説し、何でそんな事を知っているのかと神は思わず頭を抱えた。

「嘘!?」
その言葉にアルマロスはいともあっさりと陥落し、神の事を哀れむような、それでもって笑いを堪えるような目で見つめる。
「お前等それ以上言うと私のマグナムが火を吹くぞ。」

「「とんでもない!!」」
「……。」
サリエルとアザゼルがハモった後、セムヤザがそっと話し掛ける。
「神、標準がピストルだから。」
その言い含めるような言葉にとうとうキレた神は、堪り兼ねて叫びだした。
「なら誰が一番か言ってみろ!!私が検分してやる!!」

そうすると、その場に居た全員が一瞬黙った後に、同時に同じ人物の名前を挙げた。

「イーノックだろ。」
「イーノックだな。」
「イーノック以外に居ないな。」
「私の可愛いイーノックが一番だな。」
「イーノックと居ると俺自分が子供かと錯覚する。」
「格が違う。」
「馬に引けをとらないかもしれない。」

つい先刻まで神の息子を散々馬鹿にした奴等が口々にイーノックのマグナムを誉め讃える。

こうなったら、と拳を握り締め、神は高らかに宣言した。

「イーノック!私と勝負しろ!」

「えっ「「「とんでもない!!!」」」

指名された金髪が驚いて声を上げるよりも早く、周囲から静止の声がかかった。
「神ソレは無謀が過ぎる!!二個で百円の水鉄砲がヴァルカン砲に勝てる訳が無いだろう!?」
先ほどまでの態度とはうってかわって、洒落にならないとばかりにルシフェルが必死で止めようとするが、神にもプライドがある。

「誰か助けて!ウチの子が線路に身を投げようとしてるの!」
背後でガブリエルが叫ぶが気にしない。
未だ戸惑っているイーノックをずるずると別室に引きずり込んだ。







―――数分後


何処か焦っている善良な人間イーノックと、俯き床をじっと見つめたまま顔を上げようとしない神が部屋から出てきた。






「か…神?」

ただならぬ雰囲気を察知し、ミカエルが恐る恐る声をかける。


「……………だ。」

「え?」


「……今日から神の座はイーノックに譲る事にした。」

半分程泣きながら、それだけ言って神は走り去った。
「え、ちょ、神!?」
「お前等全員嫌いじゃーーーーーー!!!!!」

それ以降、天界でその話題は禁句になり、下半身のラインが出るタイプの下履きを履く時は女の気分でと言う厳格なルールが定められる事となったそうな。