見つめる


回る視界に内腑の底から込み上がる吐き気。
耐えきれなくなってその場に突っ伏すと、丁度そのタイミングで背後から慌てたような声が聞こえて安堵の息を吐いた。
「ルシフェル…すまない、私には無理だったようだ。」
絞り出すようにようようそう訴えると、バツの悪そうな顔をして白い手が私の背を擦ってくれる。
「いや、私の方こそすまない。まさかこんな事になるとは…。」

ルシフェルから貰った未来の道具は、慣れるまでに多少の時間が掛かったものの、慣れてしまえばこれ以上に便利な存在は無いのではと言う代物だった。
曰く、ペンが無くとも文字が書け、インクは途切れる事無く溢れて文字を間違えたとしても一瞬で訂正が出来る。
さらに光を放つので、暗い場所でも文字を記す事が出来ると言うのだ。

「これは、私には過ぎたものだったようだ。…取り敢えず、今書き終えた分だけ置いておいて、続きは今まで通り紙を使おうと思う。」
苦笑混じりにルシフェルにそう謝ってぱそこんを渡すと、彼は何故かそれを受け取った瞬間、非常に嫌そうな顔をする。
「るし…。」
「…おい、お前また話を聞いてなかっただろう。」
ぱそこんをぱたんと二つに折り畳むと、再び私の机へと置いてルシフェルは腕を組んだ。

「これは長時間連続では使えない。一時間に一度…せめて二、三時間に一度は休憩を取らないと一日ぶっ通しで使うものじゃない。」
「そうなのか?ならば、その休憩時間はどうすれば…途中で紙に戻すのか?」
「私の相手をすれば良いだろう!」

ああ怒られてしまった。
けれども、機嫌を取るべく慌てて抱き締めると唇を尖らせながらも素直に擦り寄ってくれたので、彼の甘い香りを胸一杯に吸い込んでから早速甘やかすべく口付けることにした。