ミエナイチカラ


サリエルが人間の持つ愛に憧れていると言うのは知っていた。
しかし、だからと言ってそれが納得出来るかと言えばそんな訳でもない。理論として理解は出来ても、感情がついて行かないのだ。
そんなに素晴らしいものなのだろうか、と考えはするのだが、アルマロスは柔らかな身体を抱くよりも手足を伸ばして踊りたかったし、甘い声のお喋りよりも激しく楽しい音楽の方が好きだった。

(「好き」と「愛してる」は何が違うんだろう)
ネフィリムを撫でるサリエルの手はとても優しかったが、その母親である人間の女を撫でる時の手つきとはどこか違う。
サリエルが人間を撫でる時は、単なる慈しみや優しさだけでなく、もっと何か、言い表す事の出来ない感情が籠っていたような気がする。

そう、例えば自分に触れる時のように。

(僕の事も『愛して』くれてるのかな?)

一瞬で飛躍した思考は、考え始めると一足飛びに走り出すスピードを緩めてはくれない。突如として自分を襲った言葉に出来ない感情に、アルマロスは褐色の肌を真っ赤に染めてその場にしゃがみこんだ。どうしよう、サリエルの顔が見れない。

少し離れた場所では、その様子を見ていたサリエルが不思議そうに首を傾げた。