キスじゃ死ねません


何度となく受けてきた祝福は、どれも優しく美しいものだったが、逆を言えばそれだけで、額に柔らかな唇の感触を受ける度、沸き上がる罪深い感情を隠すことに必死になっていた。

どんなに焦がれただろう。どんなに奪ってしまいたかっただろう。

そして今、俺の前にたたずむ彼は、変わることのない美しさの背中に漆黒の翼を背負い優雅に微笑んでいた。

「…どうして?」

喉を引きつらせながら絞り出した言葉に答えは無く、瞬きすら忘れて見つめていた筈の貴方はいつものように指を鳴らすと霧のように消え去る。


俺の所に残ったのは、一枚の黒い羽根。



「ルシフェル…俺は、君を…」

顔を覆った手が濡れる。雨を弾く筈の純白の鎧がしとしとと水気を含み、星の光を反射してきらめいていた。


口付けだけで終わりだなんて。