桃色気分


「ルシフェル、これは、一体…。」
困り果てています!と眉を寄せ、イーノックは低く唸った。
「説明しよう。これは着物と言って、とある島国の民族衣装だ。中々似合っているぞ?」
ルシフェルの説明はいつも何と言うかズレている。何を着せられたのではなく何故着せられたのかが聞きたいのだが、それを言っても「お前は相変わらず話を聞かない」と切り捨てられてしまうのだ。

期待していた一番良い説明は残念ながらイーノックには与えられず、その代わりに上機嫌のルシフェルの唇が降ってきたのでイーノックは喉まで出かかっていた溜め息を飲み込んで甘い舌を散々味わう。

ルシフェルの息が上がった頃に、イーノックは自分の身に付けている「着物」をまじまじと見詰めた。独特の形をした布を幅のある紐で結んで留めており、脇の下には何故だか大きな穴が空いている。
それは着物と言うよりは浴衣と言った方が正しいような薄い生地で出来ており、更に襦袢の存在を忘れていたルシフェルの所為で、帯を解くとあっと言う間に肌が露になってしまう何とも心許ないものだった。

こういったエロチックな服は、自分よりもルシフェルに着て欲しいなぁとイーノックは思ったのだが、ルシフェルはそんなイーノックを気に止めた様子も無く、嬉しそうに微笑んではイーノックの着物の裾を引っ張っている。
「ふへへ、男の色気って感じで、良いな。」
そのまま分厚い胸板に擦り付き、満足気な息を吐くと猫が甘えるようにごろごろと喉を鳴らした。
「お前、暫くこの格好で居ろ。あ、でも私以外に見せるんじゃないぞ。話すのも駄目だ。書類は私が運んでやるから気にするな。」
「まるで監禁じゃないか。」
思わずそう言って噴き出してしまったが、でもルシフェルに監禁されるのならそれでも良いなぁと思ったので、イーノックはその通りに恋人に囁いた。

それに、心はとっくに囚われているのだし。