君と二人、愛を交わそうか。穏やかとは程遠い。安らぎから一番遠い、この地で。


wilder than heaven


青い蒼い碧い、空。
此処には最も似つかわしくない、俺の眼差しに似たそれに、渇いた両瞳から涙が零れそうになる。
世界は俺達を拒んだのに、神は俺を赦さないのに、それでもどうしてこんなにも美しい。
抱きしめた君の身体が小さく震えていた。
「いこう、ルシフェル。後戻りなんて出来ないだろう?」
苦い笑いに乗せて言えば、細い身体は一層竦む。
大天使という座に縛り付け苦しめるあの世界からルシフェルを護りたくて、此処まで連れて逃げて来たけれど。俺の腕の中、黒い翼で途方に暮れたよう立ち竦む君はまるで泥の中に輝く宝石だった。君の白い手に、俺のこの手は相応しくないとでもいうように。
救ってくれはしない光が私達を何よりも示している気がする。愛に溺れた逃亡者は俺達だった。
「大丈夫だ、問題ない。何も、何者にも君を傷付けさせやしない。君はただ笑って、俺の腕の中に居てくれれば良い」
君が笑うだけで、俺は、気が触れそうな程幸せになれるから。
愛の名に、世界が欲望に囚われても。無慈悲な神が君を取り戻そうとしても。俺は君を奪い取る。怯える君が、赤い瞳に涙を湛える時には、必ず。
「ほら・・・此処ならば、過去の遺物は何も見えない。誰も、邪魔する事は出来ない」
愚直な世界が、全能たるはずの神が、君を傷付けるというのなら、そんな世界はもう要らないだろう?
湛えた涙が俺に向けられたものだとしても。俺は世界から君を連れ去ってしまおう。
だって真実の君は、こんなにも愛を求めているのだから―――。
逃げ出した先は、天国より野蛮で、酷く優しい所だった。
愚かな人間の剣を、天使が自ら研いでくれるような、そんな場所。


(此処には言葉の意味なんてないんだ)
(俺がいて君がいる。ただそれだけ、。)



END                     BGM:「天国より野蛮」