不意打ち


気配を感じて振り返った瞬間、唇にぶつかった柔らかな感触に、ルシフェルは驚きを禁じ得なかった。
普段このような事を仕掛けるのは自分であるし、イーノックはそれに対していつも困ったように眉を寄せたり真っ赤になったりと、慌てたような姿を見せていたのに。
さて、一体どんな反応を返せば良いのだろうかと些か酷いことを考えながら首を傾げてイーノックを見ると、彼は自分からその口付けを仕掛けたにも関わらず真っ赤になって手で口を覆っていた。

「…っ、ふふ。何だそれ。」

思わず噴き出し、それを切っ掛けに愉快な気分が増幅してゆき仕舞いには腹を抱えて大笑いする。
イーノックは暫く気まずそうに視線をうろうろとさせていたが、やがて口から手を退けておずおずと声を出す。

「あー、その、ルシ…っ!」

「私を驚かせようなんて、百年早い。」

にたりと笑ったルシフェルが濃厚なのをお返しした所で、イーノックは今度こそ黙りこんだ。