足りない


よし、と何かを決意したように一つ頷くと、ルシフェルは立ち上がって部屋の扉に手をかけた。
同じ部屋で書類の整理をしていたミカエルが、何時に無く真剣な様子の兄を不思議に思い、扉を潜る前の背中に問い掛ける。

「何処に行くんだ?」
「イーノックの所。」

その答えにミカエルは「しまった」と心の中で盛大に舌打ちをしたがもう遅い。

「もう二日も抱かれてないからな。イーノックだってそろそろ溜まってる頃だろう。」

毎日毎日あれだけヤっといてよくもまぁ。どの口がそんな事をほざくのかとミカエルが呆れるのも無理は無い。
イーノックがこの天界へと召し上げられてからたった三日で愛を誓い合ったこの二人は、それからと言うもの毎日毎日、睦み合い触れ合い愛を確かめ合っており、今では一日の半分は共に居ると言う様だ。
一部ではあのルシフェルに漸く首輪が着いたとの喜びの声もあるが、ルシフェルが自分の仕事を放り出してイーノックの邪魔をしているとなると、真面目なミカエルとしてはどうも腑に落ちない。

「そのうち怒られるぞ。」
「大丈夫だ、下界時間では週一しか合っていない。」

ご機嫌な足取りで消えて行くルシフェルの後ろ姿を見て思い出したのは、未来で語り継がれている天の川の伝説だった。
(引き剥がされれば良いのに。)