36℃


おかしい。

天使に体温と言うものは存在しない。それはつまり、私の身体が人間よりも冷たいのだとそう思っていたし、実際、イーノックと手を繋いだ時にもそう思った。私が触れたアイツの肌は暖かく、逆にアイツは私の肌に触れて冷たいと感じたと言っていた。
だから、私の体温は少なくともイーノックよりは低い筈なんだ。

「…壊れているんじゃないのか?」
「電子ならともかく、このタイプが壊れる事は無い。」
控えめに尋ねてくるイーノックの発言に首を振って、手に持った水銀温度計を目からビームが出そうなくらい睨み付ける。
だって、なあ、明らかにおかしいだろう。私とイーノックの体温が全く同じだなんて。

「もう良いじゃないか。」
「良くない!この謎を解き明かすまで私は諦めないぞ!」
私の体温が上がったか、それともイーノックの体温が下がったのかと思ってべたりとくっついてみるも、相変わらず触れる温度は私のものより幾らか高い。気がする。
猫のようにごろごろと喉を鳴らして甘えると、イーノックは目を細めて嬉しそうに私を撫でる。そうだろう嬉しいだろう、何たってこの私が甘えているんだからな。だからもっと可愛がれ。

片手に持った体温計をもう一度見た。三十度。気温にかなり近付いている。

よしじゃあ今度こそとその体温計を咥えようとしてはたと気付いた。ぴったりと身を寄せあっている今、私とイーノックの体温は溶け合ってほぼ同じくらいになっている。
「駄目じゃないか。」

こうなったらもっと溶け合ってやろうと首筋に噛みつくと、イーノックが笑った。