あぶくたった煮え立った


きゅっと握られた掌同士は本来なら控えめにその関係性を主張するに留まる筈だったのだが、何がどうしてこうなったのか、まるでがっぷりと腕を組んだ上に肩を寄せあっているかの如く存在感で周囲の人間を非常に居たたまれない気持ちにさせた。
その原因を明確に表すのは困難だが、あえて一つ挙げるとすれば二人の視線が大きいだろう。
まるで情事の最中ででもあるかのようにうっとりとしながら瞳と瞳を重ね合わせ、どちらも薄く頬を染めて口の端を持ち上げる。
恐らく互いの目の中にはハートマークが大量に浮かんでいることだろう。


「…お前らいい加減にしろよ。」
疲れた声でそう言ったのはサリエルだった。
クラス中の気持ちを代弁した彼は、人目も憚らずいちゃつく二人を何とか引き剥がしてやろうとその間に割り込もうとするが、ルシフェルもイーノックもひょいひょいとその攻撃をかわして笑っている。
「何だ、手を握るくらい小学生だってするぞ。」
ルシフェルはそう反論すると、恋人繋ぎに繋いだ手を胸の所まで持ち上げてふりふり振った。
それだけじゃ無いだろうお前等はと反論しようと思ったが、その前に教師からのお呼びがかかって手を繋いだまま二人仲良く教室から出ていったので、サリエルは深追いする事を諦めため息を吐いた。

「僕はフォークダンスで精一杯だったから、あんな風に手を繋いだ事も無かったよ。」
苦笑混じりに、それでも何となく羨ましそうな声が背中に注がれて振り返る。
するとそこでは太い眉を困ったように寄せたアルマロスが、じっと自分の手を見ながら座っていた。
サリエルはその発言に意外そうに目を瞬かせると、何を思ってか細い指を伸ばしてアルマロスのそれを捕らえる。

「え…。」
「あいつらだけ良い思いをしてるのは、悔しいだろう?」

お前達もかとクラスにため息が響き渡ったのは、仕方の無い事だった。