LOVE PHANTOM


「アークエンジェルのステンドグラス?」
驚き半分呆れ半分、何故そんな事をと言う疑問を全身で表しているアザゼルの反応は予想通りで、サリエルはにこにことした笑みを崩さぬまま言葉を続けた。
「俺は今でも彼等を尊敬している。だから神も讃えるしアークエンジェルの像も作りたいんだ。」
まあお前が満足するなら好きにすれば良いがと同意を示したところ、先に話をしていたらしいアルマロスの他にエゼキエルとバラケルも呼んで、早速ステンドグラスのデザインについてああでもないこうでもないと語り合うことになった。
だがしかし、残念ながら堕天使の中に絵心のある者が居なかったので、実際の絵は心棒者の中で絵の上手い人間を呼んで描かせる事にし、堕天使達は取り敢えずアークエンジェルの容姿を伝えるべく言葉を捻り出す。

「ウリエルは赤毛の大男だ。筋骨隆々で髪の毛は短い。」
「ガブリエルは桃色の天使だな。四人の中で唯一、女の姿をよく取っている。」
「ラファエルは緑でおっとりした感じの…ああ、髪は巻き毛ナノデス。」
ただそれだけの単純な説明なのに、連れてきた信奉者はよくやってくれた。繊細で華やかな絵柄は、きっとアークエンジェル本人が見ても直ぐに自分の事だと理解するだろう。
しかし、順調だった作画作業は四人目の天使の話題になった途端にぴたりとその進みを遅らせた。正しくは作画が、ではなく、それを語る堕天使達の唇が止まったのだったが。

「後は…ミカエルか…。」
「あー、ミカエルなぁ…。」
一気に口籠る様子に、絵を描いていた者だけでなく手伝いや何やらで周りに居た人間までどうしたのかとハラハラしながらその様子を見守る。

「…ルシフェルじゃない方。」
やがて、ぽつりと呟かれたバラケルの言葉に、アルマロスがその通りだとうんうん頷き同意を示した。
それを皮切りに、再び堕天使達の会話は始まり周りの信奉者達はほっと息を吐く。
「色としては青なんだが…青なんだけど金髪で…いやでも青…。」
「それより顔だ。ルシフェルじゃない以外に説明が出来ない。」
「フォォォン!」
纏まり相変わらず無かったが、それでもステンドグラスは着々と形作られる。


そんなこんなで数ヶ月。最終的にミカエルの姿はもう任せるとイラスト担当に投げられて、漸くサリエルの目的は達成された。
完成図は堕天使皆で見ようと言うアザゼルの提案により、大きな幕の張られた場所に皆で立つ。やがて退けられた白い幕の下。そこに現れた美しいガラス細工に、一同は息を飲んだ。

赤く逞しい男、緑の優しそうな男、桃色の豊満な美女。そして、苦肉の策で出来上がった、真っ青な髪の毛に顔を隠した男の姿。

「ミカエル!!」
「これだ!」
「成る程これならすぐ解る!」

堕天使達は何よりもまずそれに反応した。それは実際のミカエルとは似ても似つかぬ姿であるにも関わらず、何故だかしっくりと馴染み一目でミカエルその人であるとよく分かる。

ちなみにそのステンドグラスは天使達にも大好評だった。
イーノックがその場所に訪れた時、ラファエルは腹筋をプルプルさせながらステンドグラスについて解説し、またガブリエルとウリエル、ルシフェルは遠慮無しに大爆笑しており、ミカエル本人だけが何とも言えぬ表情で立ち尽くしていた。


ルシフェルはその後、自分が描かれていなかった事を知って激怒していたのだが、それはまた別の話である。