指先


パキ、パキ と。
小さな音を立てて白い堆積物がイーノックの目の前に現れ、やがて一区切りがついたところで積み上げられたものは褐色をした掌の一振りで消えていった。

「案外、器用なんだな。」

一筋の傷も残さずつるりと剥けたゆで卵を見詰めてルシフェルが言う。農具を持ち、武器を持っていたイーノックの指先はお世辞にも美しいとは言い難く、厚くささくれだった皮膚はそれに護られたいとは思わせても細かな作業が向いているようにはとうてい見えなかったのだ。
反するルシフェルは白く細い指先を持っていて、まるでピアニストのようにしなやかなそれは一見とても器用そうに感じられるのだが、その見た目とは反対に彼は案外。

「ふふ、貴方は案外不器用だな。」
そう言って笑う相手にむすりと頬を膨らませると、白身がぐちゃぐちゃになったゆで卵を突きだし未だ完全には殻の剥けていないそれを手渡した。
「もう良い、私の分も全部お前が剥け。」

イーノックは益々笑みを深くすると、黙って自分の剥いた綺麗な卵とルシフェルのそれを交換していびつな卵の続きを剥き始める。
「そうだな。貴方には私が居るから。」
悔しいがそれに言い返す言葉は思い浮かばなかったので、ルシフェルは無言のままゆで卵にかぶり付いた。