はちみつ


頭部の不快感ともしゃもしやという妙な音につられるように、イーノックは眉を寄せて上を見上げた。
「…ルシフェル?」
嫌な予感を振り払えないまま、何をしているんだと訪ねようとしたが、その前に本人の手によってその予感を的中させられる。
「不味いな。」
「当たり前だろう。」

私の髪の毛なんか食べて、一体どういうつもりなのだろうか。

あまりにも突拍子も無い行動に、驚きと言うよりも半ば呆れながら諦めきれないように髪の毛を引っ張ったり見詰めたりしているルシフェルの様子を伺う。
「…ルシフェル?」
「ん?」
再び口内に招き入れられそうになった髪の毛を慌てて救出すると、細い身体を抱き締めて向かい合わせになるように膝の上に乗せた。
どうせならもっと別のものをお口に咥えて頂きたいなと、薄く開いたままの唇に指先を突き入れる。
「髪の毛なんか、美味く無いだろう。」
「蜂蜜みたいで旨そうだと思ったんだ。」
差し込んだ指にちゅうっと吸い付き拗ねたように言う様はまるで幼子のようで、イーノックの庇護欲を心底掻き立てたのだが、それよりも。

「私がルシフェルを食べたいな。」
「中年親父のような言い種だなぁ。」
文句を言いながらでも、蜂蜜よりも甘いその身体を食べさせてくれる事はよく知っているので。