寸止め


手は繋いでくれるのに腕は組ませてくれない。
頬や額、稀に唇に、そっと触れるだけの祝福はくれるけれどそれ以上の触れ合いはさせてくれない。
至高の大天使相手にそんな事を望んでしまう自分が悪いと言われればそれまでなのだけれど、仮にも想いを伝えあった仲なのだから、もう少しこう、何か進展があっても良いんじゃないかと考えたりする訳だ。
色も厚さも薄い唇に吸い付いて舌を絡ませたいなとか、身体と身体を寄せあって互いの温もりを分かち合いたいなとか。
嗚呼、そんな事を考えていたら触れたくなってきた。

まるで灯りに誘われる虫のようにふらふらと近付きその黒衣を掴むと、不思議そうに此方を見つめる赤い瞳に唇を寄せた。
瞼にキスをして、改めてその睫毛の長さに驚かされる。微かに震える様子に男としての本能が激しく揺さぶられ、今度はその首筋にと顔を傾けた途端。

「ふへへ、くすぐったいだろ。」

そんな風に、声を上げてそれはそれは可愛らしく笑うので、その笑顔に負けて今日も私は手が出せない。